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始まる入学式

 天翼学園には、入学式や始業式、それから学園主催のパーティー等を開く“式場”と呼ばれる会場がある。今日の始業式と入学式でもこの式場が使われる事になり、ラテール先生の指示でミアたちは式場へと向かった。

 但し、直ぐには入場しない。何故なら、ミアたち一年生が入学式での主役だからである。

 式場前で一年生が集められ、十クラスが全員(そろ)っているかどうかを確認して、順番に入って行く。そして、ミアたちのクラスは一番最初に式場に入るクラスだった。理由は勿論ミアが“聖女”だから。と言うわけでは無く、ミアとネモフィラが特待生だからである。


「きゃあ。可愛い」

「本当に五つも下の子が二人も入学したのね」

「あれ? 二人とも同じ服じゃね?」

「特待生は分かりやすいように学園が制服を準備したらしいぜ」

「なあ? なんでラテール先生はその特待生の頭の上に乗ってるんだ?」


 等々。ミアとネモフィラが入場した途端に騒めき出す。注目を浴びたミアが居心地の悪さを感じる隣で、ネモフィラがその声の一部を聞き取ってミアの頭上を確認する。


「ラテール先生は他の先生方の様に、先生用の椅子に行かないのですか?」

「面倒臭いです」


 相変わらずのマイペースである。そんなラテールを頭に乗せ乍ら、ミアが会場に設置された椅子に腰かけて全員の入場を待っていると、最後のクラスが入場した途端に会場内が一瞬だけ静まりかえった。そして、生徒たちが一人の少女に注目する。


「おお。あのお方が聖女様か……」

「なんて神々しいお姿でしょう」

「流石は聖奉国せいほうこくね。聖女様を信仰しているだけあるわ」

「まだ十一とは思えぬ姿……お美しい」

「是非お近づき合いになりたいわあ」

「入学式の後にお茶会のお誘いを」


 等々。ミアとネモフィラの時以上の騒めきが起こり、これにはミアもニッコリである。そしてその聖女と呼ばれ注目集めたのは、登校中に出会ったチェリッシュだ。

 彼女はとても穏やかな顔で笑みを浮かべ乍ら、真っ直ぐと歩く。そしてその背後には、聖女と言う特別な存在(ゆえ)に、本来であれば禁止をされている侍女と護衛を付けての登場だ。その中には、あの時に怒っていたシスターサリーなる人物もいた。


「流石は聖女じゃ。皆から注目をされておるし、特別待遇をされておるのう」

「わたくしはあの方が聖女などと認めません」

えではないか。ワシはとてもい事だと思うのじゃ」


 どうやらネモフィラは気に入らないらしく、珍しく不機嫌な顔でチェリッシュを睨んでいる。


「全然よくありません。それに、入場でも侍従を連れて歩くのは禁止されていますのに、あの方だけ特別扱いは良くないと存じます」


 そう言ってミアの頭に座るラテールに視線を向ければ、ラテールは興味無さそうに欠伸あくびをして答える。


「天翼会側としては聖女を特別視するのは当たり前です。あの子供が聖女と名乗って、他の奴等がそれを認めている以上必要な事です」

「そうかもしれませんけど……」


 聖女に取り入ろうとする者や、利用して悪い事を企む者だっているだろう。そういう者から遠ざけ護る為にも、侍従を常に連れておくのが必要で、ネモフィラもそれは理解していた。

 でも、本当の“聖女”はミアだ。ネモフィラはミアこそが“聖女”様なのだと、本当は話したくて仕方が無かった。だけど、それをミアが望まないから言えない。偽物の聖女にミアのポジションを取られる事が、本当に何よりも悔しいのだ。だと言うのに、ミアはこれでもかと言う程にニッコニコで喜んでいる。


「ミアが喜んでいるなら、もうわたくしも何も言いません……」


 ニッコニコなミアの顔を見て、ネモフィラは諦めるように呟いて納得せざるを得なかった。しかし、次の瞬間、ネモフィラの考えが百八十度変わる。


「ああやって聖女が現れた事じゃし、ワシも安心してフィーラと楽しい学園生活を送れそうじゃ」

「――っ!?」


 自分と一緒に“楽しい学園生活”。ミアの言葉にネモフィラは衝撃を受け、そして歓喜した。


「はい! いっぱい楽しみましょう! ミア!」


 途端に偽物の聖女がありがたい存在に感じて、ネモフィラはミアとの楽しい学園生活を想像し、とても良い笑顔で頷いたのだった。

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