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第三王女の信者

 ヘルスターと同じグレイマル伯爵家の血縁者ユーリィ=グレイマル。彼女の自己紹介は、同級生たちをドン引きさせるには十分なものだった。しかし、それもその筈だろう。彼女はネモフィラ派の中でも、かなりの狂信者なのだから。

 ヘルスターがネモフィラの命を狙った最初の事件では、天翼会に彼が引き取られていなければ、彼女が城に不法侵入して彼を私刑していたであろう程のヤバさがある。そして、そんな過激的な彼女は陰ながら応援するタイプの少女でもあった。しかし、今、彼女は新たな一歩を踏み出してしまっている。

 ユーリィは物陰から推し活するのではなく、表立って推し活する事にしたのだ。今までは自重し、ネモフィラと言うお姫様アイドルを物陰からこそこそとす推し活勢だったユーリィだったが、この天翼学園への入学と同級生と言う立場がそうさせた。同級生と言うアドバンテージがユーリィの自重する精神を撃ち破ってしまったのだ。

 そんなわけで、クラスメイトたちを見事にドン引きさせた彼女は、ニッコリとネモフィラに笑みを浮かべたまま着席した。尚、ユーリィの最近のマイブームはネモフィラとミアが二人で仲良く遊んでいる姿を遠目から観賞する事らしく、ミアへの印象も良いようだ。


「なんか、ネモはヤベえのに好かれてるですね」

「う、うむ……」


 同じくマイペースな手の平サイズの二頭身な精霊ラテールもこれにはドン引きしていて、冷や汗を流して呟き、それに同意してミアが呟いた。ネモフィラに視線を向ければ、動揺と困惑の表情をして冷や汗を流している。

 教室の中は静まりかえっていて、ラテールもうっかり次の生徒に自己紹介をうながすのを忘れてしまう程。にもかかわらず、その隣に座っていた同じくチェラズスフロウレスの生徒が立ち上がった。


「皆さん初めまして。ごきげんよう。ネモフィラ殿下をこよなく愛するユーリィ=グレイマルの同志、ニリン=グラスフラワーでございます。以後、お見知りおきを。では、大変恐縮ではありますが、わたくしが如何にネモフィラ殿下を愛してやまないか説明をさせて頂きます」

(また何か妙に濃いのがきたのじゃ……)


 そんな説明誰も求めてねえよ。って感じで、ニリンと名乗った少女が説明を開始する。それを聞かされるクラスメイトたちはこれまたドン引きし、誰もが顔を引きつらせていた。ネモフィラも何やら顔を真っ赤にしていて、もの凄く居た堪れない感じになってしまっている。そして、ラテールは遂に寝た。付き合ってられんとでも言いたそうにあくびをして、ミアの頭の上で寝てしまった。

 そんな中、ミアは早く入学式が始まってほしいと考え乍ら、ネモフィラの良い所を熱く語るニリンの言葉を右から左に流して時計を見る事にして暫らくが経つ。


「と、この様に、ネモフィラ殿下は大変素晴らしいお方なのです」

(やっと終わったのじゃ)

「続いて、ネモフィラ殿下が時折見せる笑顔の中でも、大変素晴らしい笑顔をする時には必ずミア様がいる事についてのご説明を――」

「ええい! そこまでじゃ! 長すぎるのじゃ!」


 自分の名前が出た事で、ミアも流石に止めに入る。すると、ミアに止められた事を不快に思うどころか話しかけられた事に感動して、ニリンが目を輝かせて「はい!」と元気に返事をして着席した。そして、ユーリィが羨ましそうにニリンにコソコソと話しかけ、ミアはその様子を見てドッと疲れが出てしまった。


(フィーラのファンなのに何でワシに怒られて喜んでおるのじゃ……? わからぬ……)

「……ん? あれ? 終わったです?」


 寝床のミアが大きな声を出したからか、ラテールが目を覚ます。と言うわけで、自己紹介の続きが始まったのだけど、ネモフィラ推しの二人のせいで気力が奪われたのだろう。その後の自己紹介は淡々としたものになった。しかし、一つだけ問題が。


「あ。ネモの信者のせいで園内施設の説明の時間が無くなったです」


 と言う事で、ユーリィとニリンのせいで、入学式前にする筈だった園内施設の説明が無くなってしまったらしい。おかげで入学式後に少しだけ居残りで説明を聞く事になり、ミアのクラスでのチェラズスフロウレスへの風当たりが、また一つ悪くなるのであった。

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