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入学準備

 天翼学園入学式当日。ミアの侍従であるルニィとブラキとクリアとムルムルの四人は、チェラズスフロウレス寮への引っ越しの為に朝の早い時間帯から忙しくしていた。ヒルグラッセとチコリーはミアの護衛の為、そしてクリマーテはミアのお世話の為に、三人だけ残っていつものように勤めをこなす。そしてそれはネモフィラの侍従たちも同じで、残ったのはカナとモーナだけだった。

 因みにルーサはブレゴンラスド寮からチェラズスフロウレス寮に引っ越しをするらしく、朝早くから一人でその準備に向かっていた。そんなこんなで侍従の欠けた一日が始まり、いつものように朝食を食べたミアは、例の制服に着替える。


「とってもよくお似合いですよ。ミアお嬢様」

「褒めてもらえるのは嬉しいのじゃが、これを着るのはワシとフィーラだけなのじゃろう? なんだか目立ちそうで嫌なのじゃ」


 クリマーテに褒められるも、変な心配を募らせるミア。

 天翼学園に通う間に着用する制服は、胸下あたりから伸びるスカートに、サスペンダーが付いている物をベースにした物。色は紺色でスカートの丈は膝上五センチ。上着は真っ白な半袖のシャツで、お好みで長袖のある紺色のブレザータイプの上着も上から着用可能。だけど、ミアは着ていない。靴下くつしたも指定のもので、膝上まであるニーハイソックス。因みに色は紺か白の二種類から選べて、今日のミアは白である。そして、靴も勿論指定の靴で、つやのある黒のパンプスだ。

 こうして着用すれば、日本の私立小学校で着ていく制服を思わせる。ただ、この世界……と言うよりは、お国柄的に気になる点が一つ。


「スカートの丈が短くないですか?」


 そう疑問を口にしたのはチコリーだ。実際彼女の言う通り、王族や貴族、ましてや聖女が着る衣装にしてはスカートが短すぎる。平民だってこんな短いスカートは滅多に穿かない。膝下どころか膝上のスカート丈なんて、ミアもこの世界で生まれて初めての経験だった。

 しかし、これには勿論理由がある。とんでもなくしょうもない理由が。


「ジャスミン先生の趣味らしいのじゃ」 

「…………はい?」

「ジャスミン先生の趣味らしいのじゃ」

「…………あ。はい」


 はい。と言うわけで、この制服は天翼学園にてチェラズスフロウレス寮の寮長を担当する副会長ジャスミン先生の趣味である。ただの趣味なので深い意味も無いし、考えるだけ無駄なのだ。これには疑問を口にしたチコリーも戸惑い、そして動揺し、二度も同じ事を言ったミアの言葉に頷くしかなかった。


「私は結構ありだと思います」


 なんて楽しそうに話すクリマーテの後ろで、ヒルグラッセが冷や汗を流して犬尻尾を垂らしていた。


「でも、チコリーのおった魔人の国の女子おなごは露出度が高い者が多かったと思うし、チコリーも右肩を出しておるから気にせんと思ったのじゃ」

「確かにミアお嬢様の仰る通りですけど、でも、ミアお嬢様がそんな格好をするとなると別ですよ」

「よくわからないのじゃ」


 チコリーとしては自分は多少肌を見せても良いけど、大事な主のミアが肌を露出するのはいただけないようだ。何やら神妙な面持ちで「抗議するべきでしょうか」とブツブツ一人で呟いている。そして、チコリーの教育係でもあるヒルグラッセがそれを聞いて止めようとしないあたりから見ると、ヒルグラッセも思う所があるようだ。しかし、それもクリマーテが「私は断然これが良いと思います」とミアに面と向かって断言した事により、一先ずチコリーの抗議は無しになった。

 そうしてミアの制服お披露目が終わると、いよいよ天翼学園に向かう為に、学園に向かう生徒が集合している広間へと移動を開始した。その途中でネモフィラと合流したのだけど、ネモフィラはブレザーを着ていて、慣れない短いスカートに恥ずかしがっていた。


「何だか落ち着かないです」


 落ち着かないと話すネモフィラが何だかとても可愛らしくて、ミアはニッコリと微笑んだ。

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