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TS転生のじゃロリじじい聖女の引きこもり計画  作者: こんぐま
第六章 王位継承権の行方
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幕間 国王は事件を振り返る

 私はチェラズスフロウレスの王ウルイ=テール=キャロット。社交界暴動事件から暫らくが経ち、チェラズスフロウレスがここ最近……正確にはここ一年以内に起きた事件の資料を、妻のアグレッティと一緒に読み返していた。


「こうして改めて見返してみると、本当に厄介な事件が多い一年だったな……」

「聖女様がいなかったらと思うと、とても恐ろしい出来事ばかりでしたね」

「そうだな」


 私の呟きをアグレッティが苦笑しながら拾い上げて返し、私はそれに同意する。それにしても本当にアグレッティの言う通りだ。と、私はつくづく感じていた。


「お披露目会に乗じてネモフィラをカオウ地方のダンデ村に連れて行ったのは、結果だけ見れば正解だったな」

「そうですね。あの子には……フィーラには辛い出来事でしたけど、でも、それが無ければ今もっと大変な事になっていました」


 ダンデ村の周辺にある雑木林で起きた事件。アンスリウムの配下が仕向けたぞくにネモフィラが襲われ、聖女様に助けられた。聖女様がいなければ、あの日に私は大切な娘ネモフィラを失っていただろう。

 ネモフィラを襲った賊は天翼会に引き取られ、それ相応の処罰が下されたと聞く。本当はこの手で罰を与えたかったが、それは聖女様の方針で出来なかった。今でも自らの手で罰する事が出来ず悔しいと感じる事件ではあったが、それで良かったと納得している事件でもある。


「その資料、私にも見せて頂けますか?」

「ああ」


 頷いてアグレッティに資料を差し出すと、パラパラと資料を少しめくり、驚いた顔をした。私がその様子に「どうした?」と問うと、アグレッティは少し困ったような表情を浮かべ、私に問題の頁を見せた。


「グレイマル伯爵の孫娘のユーリィ=グレイマルも天翼学園に今年入学するのですね」

「心配か?」

「心配では無い……と言えば嘘になります。グレイマル伯爵の第二子……ヘルスターには悩まされましたから……」


 アグレッティが心配するのも無理は無い。グレイマル伯爵家と言えば、あの二度に渡って事件を起こしたヘルスターの血縁者達だ。

 本来であれば血縁者全員を処刑の対象にするところを、聖女様が「連帯責任は負の文化なのじゃ!」とお怒りになって無しになった。聖女様(いわ)く「そうやって本人以外を巻き込もうとするから憎しみや争いが生まれるのじゃ」との事。私の考えとしては、その憎しみを断ち切る為にも血縁者を一緒に処刑するのだが、聖女様のお考えを否定するのも違うだろう。

 しかし、ヘルスターか。最初はネモフィラを誘拐し命を狙い、二回目はアンスリウムを慕うフラウロスと協力した凶悪犯罪者だ。度重なる犯罪により、天翼会で処分されたと聞く。

 その凶悪犯罪者のめいにあたるグレイマル伯爵の孫娘と考えると、どうしても心配してしまう。だが、学園の入学有無の権限は天翼会にあり、我々王族にもそれをくつがえす事は出来ない。もし私がヘルスターの姪だからと言う理由で罰し、学園への入学を阻止する事があれば、きっと天翼会は私を許さないだろう。下手をすれば国を失う事になる。それだけは避けねばならない。


「しかし、本当に色々あったな」

「ええ。本当に……」


 アンスリウムの謀叛での被害は特に酷い。アンスリウムの派閥に属していた貴族の殆どが反旗を翻し、民に恐怖を与えて信頼を無くした。聖女様のおかげで解決した後も、処罰対象となって抜けた貴族の穴を埋める為にサンビタリアが手伝ってくれていなければ、今より酷い状況だっただろう。

 あの事件で多くの優秀な貴族を失った。しかし、サンビタリアのおかげで今はだいぶ落ち着いていて、ネモフィラや聖女様と一緒に学園に行った後の事も考えて各資料をまとめて引継ぎも終わらせてくれた。あれ程の事が出来るのも、サンビタリアが今まで努力を惜しまずしてきてくれたからだろう。そう思うと、アンスリウムの誕生で舞い上がり、大事なものを見落とした過去の自分が本当に恥ずかしいばかりだ。


「ルッキリューナの処罰を天翼会側は何もしない……か」

「ジェンティーレ様が仰っていたように、こちらに一任するようですね」

「下手をすれば王族全員が消されていたからな。サンビタリアも聖女様がいらっしゃらなければ間違いなく死亡扱いだった。チェラズスフロウレスが建国されてから、ここまでの重罪は初めてだ」

「今思いだしても背筋が凍る程の恐怖と錯覚を覚えます。サンビタリアがフィーラを庇って消されていたと知った時は、とても怖くなり、助かって本当に良かったと心から感じました」

「私もだよ。だが、それ故に慎重に刑を下さなければならない」


 聖女様は私が思う以上に本当に慈悲深いお方だ。誰よりも死を嫌い、どんなに罪深い者にも手を差し伸べる。

 国を……娘たちを救ってくれたあの方の顔が曇らないのなら、私はそれが何よりも嬉しい。だから、聖女様が望むまま、その願いを少しでも聞き入れ、叶えたい。そしてそれはアグレッティも同じ想いだ。


「聖女様が望むなら、貴方は死刑をしないのでしょう? ウルイ」

「ああ。あの方の悲しむ顔は見たくないからな」

「私も同じ気持ちです。聖女様には笑顔でいてほしいですから」


 きっと不満を持ち、死罪にしろと死刑を望む声を上げる民は出るだろう。今までの罪人の時だって出なかったわけでは無い。しかし、それでも、私はこの考えを改めるつもりはない。自分に火の粉が降りかかるのをかえりみず、我々に手を差し伸べ救ってくれた聖女様の為なのだから。

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