家族との別れ
社交界の暴動事件の翌日。家族が家に帰る事になり、朝ご飯を食べたミアは城門まで見送りに来ていた。ネモフィラ以外の王族は既に挨拶を済ませていて、この場にはいない。と言うのも、あれだけの事件があった昨日の今日だ。本当に忙しくて見送りに来る余裕が無く、だから、幼くて後処理をするにはまだ頼りないネモフィラが代表として来ていた。
「申し訳ございません。カサリーノ小母様。本当はわたくしのお父様とお母様とお姉様とお兄様もお見送りをする予定でしたのに……」
「良いんですよ。ネモフィラ王女に来て頂いただけで十分です。ねえ? デノン」
「そうだね。と言うか、私としては王女様に態々見送りに来て頂いた事に恐縮してしまうけど」
「父さんはいい加減慣れろよな。まあ、気持ちは分からなくもないけど」
ネモフィラに見送られ、男性陣は少し緊張気味。その様子にカサリーノは呆れ顔を見せ、ミアの背後に立つ侍従たちに視線を向けた。
「この子は変な子だから大変でしょうけど、今後ともよろしくお願いします」
「いえ。そんな事はございません。ミアお嬢様にはいつも学ばさせて頂いています。精一杯に身辺のお世話をして、その学びの恩返しを今後もさせて頂きます」
カサリーノの言葉にルニィが返し、侍従一同で深々と頭を下げる。その様子を見乍ら、ミアはぶつくさ「変な子とは失礼なのじゃ」と文句を垂れた。そんなミアに対して、兄エンドがニヤつきながら「本当の事だろ」と横腹を突く。
「さてと。なんだか周囲の目が気になり始めたし、そろそろ行こうか」
ミアの父デノンが話した通り、城門の周囲は人が集まって来ていた。昨日の事件は既に城下町にも知れ渡っていて、興味本位で気になっていた平民たちが城門まで来ていたと言うのもある。だから、ネモフィラ王女がいらっしゃると口コミで直ぐに広がり、それなりの数の野次馬が直ぐに集まったのだ。そんな事もありヒソヒソと「王女様」の単語が耳に届き、カサリーノもデノンに言われて成る程と納得する。
「あら。本当。やっぱり王女様もいるし目立つのね」
「母さん。今の発言少し失礼じゃない?」
「失礼じゃないわよ。王女様が素敵で人目を引くって言っているのだから」
などと騒がしくして、ミアの家族が城門に停めていた馬車に向かって歩き、乗りこんで行く。それを呆れ顔でついて行くミアと、ニコニコ笑顔でミアの隣を歩くネモフィラ。二人は馬車の目の前で立ち止まり、馬車から顔を覗かせたミアの家族に視線を向けた。
「来月からはワシも天翼学園の生徒じゃ。暫らくは忙しく、手紙も書けぬかもしれぬし、手紙が来なくても心配しないでほしいのじゃ」
「分かったわ。でも、出来るだけ書く事。今まで通り月一で良いから、近況報告は忘れないでね」
「うむ」
「辛い事があったら、ちゃんと周りにいる大人に相談するんだよ。ミアはまだ子供なんだから」
「父上も心配性じゃのう。でも、一応肝に銘じておくのじゃ」
「そう言えば、昨日お前の友人のジェンティーレって女の人に会って話したんだけどさ。天翼学園にはすっげえ大きい図書館があるってさ。ミアは本を読むのが好きだろ? 良かったな」
「うむ。大図書館であろう? それはワシも知っておる。以前試用入園をした時は出入が出来なかったから、実は今から楽しみなのじゃ」
「そうだったんだ? まあ、学園生活は色々と大変だろうけど、好きな本でも読み乍らしっかりやれよ」
「うむ。兄上、ありがとうなのじゃ」
ミアたち家族は最後にそんな話をして、馬車が走りだして「またね」と手を振る。去り行く馬車の後ろ姿と、顔を出して手を振る母親を見つめて、ミアは家族と暫らくのお別れをした。
そして、兄との話でミアはふと考える。
(大図書館にはあらゆる知識が詰まっておると聞くし、これは良い機会かもしれぬのう。昨日の一件で一先ずはワシが聖魔法を使える事を誤魔化せたけど、いつそれが解かれるかも分からぬ。どうにかする方法がないか大図書館で調べてみるのじゃ)




