激昂する聖女
「ミア様!」
「ミント……?」
ミアの許にミントが慌てた様子でやって来る。しかし、今はバラムと睨み合っている取り込み中。この場に来たら危ないと思い、ミアはジェンティーレに目配せした。
それを見てジェンティーレは直ぐに察し、ミントの肩を掴んで「危ないから」とこの場から移動しようとする。しかし、その直後にミントがバラムを見て、大きく目を見開いて「あの人……」と呟いた。
ミントの呟きはとても小さく、それはミアの耳には届かなかった。けど、ジェンティーレには聞こえた。だから、ジェンティーレは一瞬動きを止め、何か知っているのかと聞き出そうとした。
しかし、そんな時だ。ミアの視界には、ミントが来た方角にネモフィラの姿が見える。そして、その直後にサンビタリアがネモフィラを押し、光を浴びて姿を消した。ミアはその瞬間を見てしまい、驚きに目を見開く。
「いやああああああああ! お姉さまあああああ!!」
ネモフィラが泣き崩れて、その泣き叫ぶ声が会場内に響き渡る。参加者たちが恐怖で逃げ惑い、ネモフィラの周囲が開けて状況がハッキリとミアの目に映った。
泣き崩れているネモフィラの目の前で、楽しそうに笑みを浮かべるルッキリューナ。少し距離をおいた場所で、ヒルグラッセがルッキリューナを睨み、お腹を手で押さえてフラフラとした様子で立ち上がる。リベイアが涙を流しながら、その場から逃げる為にネモフィラの肩を抱いて立ち上がらせようとしていた。
「なにが起こったのじゃ……?」
会場内の地獄も悪化している。逃げ惑う人々を狙い、騎士に変装していた連中が暴れ回っている。被害は治まるどころか広がっていき、床に敷き詰められた絨毯は真っ赤な血で染め上げられていく。
ミアは理解が追いつけず、動揺が隠せなかった。
「あーあ。突然飛び出すから、メインディッシュから消しちゃったわ。あの女は最後の最後のデザートのミアちゃんの前に消す予定だったのに」
笑みを止め、残念そうにそう呟くルッキリューナは、以前の彼女と比べて本当に別人のようだった。学園に通っていた頃の彼女は、ここまで冷たい目をしてはいなかったし、冷酷な事を言うような少女では無かった。
きっかけは脱衣事件で消した衣装から借金が生まれて、借金地獄に陥った事。両親に見放されて捨てられたルッキリューナは、路頭に迷って平民以下の生活を強いられた。それは理不尽なものでは無く自業自得と呼べるものではあった。だけど、ルッキリューナにとっては誰がなんと言おうと理不尽で屈辱的で許されないものだった。彼女は自分をそうさせたきっかけを作ったサンビタリアを恨み、そして、復讐を誓ったのだ。
今のルッキリューナは、復讐に憑りつかれてしまった言わば復讐鬼。全部を失い、復讐の為に後先考えずに何処までも非情になれてしまう。それが今の彼女の姿だ。
ルッキリューナは残念そうに呟くと不気味な笑みを浮かべ、そして、そんな彼女の姿に全てを理解したミアは激昂する。
「ルッキリューナ! この、たわけがああああ!」
ここまで怒ったミアを見た者は、今まで一人たりとていなかっただろう。それ程の怒りがミアの感情を支配し、そして、それは躊躇いを捨てる。
ミアは迷う事無くミミミピストルをルッキリューナに向けて発砲。それは紛れも無い白金の光の弾丸。サンビタリアを消された瞬間を見て、ネモフィラが泣き崩れた姿を見て、正体がバレるだとかバレないだとかはどうでも良くなっていた。絶対に罪を償わせると、白金の光の弾丸に思いを籠めて、容赦の無い一撃を放ったのだ。
白金の光の弾丸は一瞬でルッキリューナの額に直撃し、ルッキリューナを気絶させ――――れなかった。
「あれ? 何か当たった?」
「――っ!?」
ルッキリューナが不思議そうに額に触れ、そして、その姿に驚くミアと目がかち合う。
「ミアちゃん! 会いたかったわあ! 貴女だけは特別に消さないであげるからねえ!」
ルッキリューナは気絶しないどころか無傷で、ミアと目がかち合った瞬間に気持ち悪いくらいの笑みを見せた。ミアはその姿に驚愕し、硬直する。するとその時だ。側にいたジェンティーレが慌てた様子で「ミア! 大変!」と声を上げた。
その声に振り向けば、ミントがぐったりと倒れている。それをクリアとムルムルが急いで抱き起こし、一生懸命ミントの名を呼び始めた。
しかし、暫らくの間は目を覚ます事は無いだろう。ミントの額には攻撃を受けた痕が残っていて、それはどう見てもミアが今さっき放ったであろう白金の光の弾丸が命中した痕だったのだから。
「なんじゃと……っ」




