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TS転生のじゃロリじじい聖女の引きこもり計画  作者: こんぐま
第六章 王位継承権の行方
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サンビタリア(2)

「こんな事を言っては失礼だと思うのですけど……。サンビタリア様は変わられましたね」

「え……?」


 ある日、リベイアと話す機会があり、サンビタリアは二人きりになるとそんな事を言われて驚いた。すると、リベイアが申し訳なさそうに、そして微笑んで続ける。


「生意気な事を言って申し訳ございません。でも、私は今のサンビタリア様は好きです。お父様も言っていました。今のサンビタリア様は昔のように輝いていて、それがとても嬉しいって」

「……そう。レムナケーテ侯爵がそんな事を。ふふふ。貴女のお父様、レムナケーテ侯爵に心配をかけさせていたのね。今度会ったらお礼を言わないといけないわ」

「ありがとうございます。きっとお父様は喜ぶと思います。勿論私もサンビタリア様はご立派な方だと思っています」


 リベイアが笑顔で話すとサンビタリアも「ありがとう」と笑顔で返し、でも、直ぐに顔を曇らせる。その様子にリベイアが首を傾げると、サンビタリアは苦笑した。


「私は本当に馬鹿な事をしていたわ。そのせいで大事なものを幾つも無くした。皆からの信頼だってそう。でも、ミアの……聖女様のおかげで目が覚めたの」

「サンビタリア様……」

「あの時……愚かな自分に気がついた時に、私は死ぬ覚悟をしていたの。我を忘れて学園で無関係な人達を、他国を巻き込んだ事件を起こしてしまった。そして、守ると誓った自分の国を脅かしてしまったわ。それだけの事をしてのうのうと生きているなんて可笑しいじゃない」

「そんな事ありません。サンビタリア様は毎日罪を償う為に頑張っています。私はそれを知っています! それに、あれはルッキリューナの暴走が原因では無いですか!」

「ありがとう。リベイア。でもね、それだけじゃないの。私に苦しめられたネモフィラの事だってある。貴女になら分かるでしょう?」

「それは……」


 リベイアには分かってしまう。サンビタリア派でありながら、同じサンビタリア派の貴族に苛められていた経験があるから。

 ランタナと婚約者であるのが原因で、リベイアを苛めていた主導者はケレニーだった。リベイアは今でもケレニーをよく思っていないし、だからこそ、サンビタリアの言葉を否定出来ない。


「ネモフィラは……あの子はいっぱい嫌な思いをして傷ついたのよ。私のせいでね。私も幼い頃にお父様からの愛情を感じなくなっていたから……分かるのよ。心の傷は一生残り続ける。ネモフィラに一生消えない傷を作ってしまった私が、罪を償うのは当たり前じゃない。そしてきっと、この罪は一生懸けても償いきれないわ」


 サンビタリアはネモフィラへの嫌がらせの罪を重く受け止めていた。そしてそれは決して消えないものだと知っている。だから、つい考えてしまう。心に一生残る傷を癒す事は出来無いかもしれないけれど、自分が死ねば、少なくとも自分の顔を見て嫌な過去を思い出す事も無いのではないかと。

 実のところ、ルッキリューナの件で背負った罪よりも、妹であるネモフィラへの罪の思いの方がサンビタリアにとっては、より重かった。それこそ、死んだ方が良いと思えるくらいに。


(私の罪は永遠に残る。だから、だからせめて、私の全てをあの子の為に使おう。きっとそれが、傷つけてしまったあの子の為になるから……)


 そうして、サンビタリアは夢を諦めた。この国の王に相応しくない器だからと自分に言い聞かせ、代わりに誰からも愛されるネモフィラを次世代の王へと考える。

 ネモフィラは嫌がるだろうけど、元々は争いが嫌で王太子候補を辞退した子だ。そんな子だからこそ、この平和の国には相応しいと思い、サンビタリアはネモフィラを支えていこうと思った。争いを嫌うネモフィラなら、きっとこの国を今よりも良い国にしてくれると信じられるから。

 その為なら、この命をネモフィラの為に差し出すのも躊躇ためらいが無かった。




◇◇◇




 考えるよりも先に走りだしていた。自分の醜い感情のせいで心を傷つけてしまった妹の為に、全力で走り、手を伸ばす。この子だけは命に代えても護り通さないとと、必死で、真剣に、絶対に助けるのだと。


「ネモフィラ!!」


 間に合った。光線がネモフィラに当たる前にその体に触れ、力強く、そして優しく押す。ネモフィラと目がかち合い、その驚いた顔を見て何故だか安心して微笑み。そして、心の底から強く思った。


「これで……これでやっと…………貴女への罪を償えるのね……」


 不思議な事に、消えて死んでしまう事に恐怖は無かった。そんな事よりも、自分の命と引き換えに大切な妹を助ける事が出来た事に心の底から安堵し喜びが溢れた。

 気がかりな事があるとすれば、ネモフィラがこれを少しでも負い目に感じてしまうかもしれない。と言う事だけど、きっとそれはミアが何とかしてくれるだろう。と、そんな無責任な事を考え、感じ、そして、サンビタリアは跡形も無く消えた。

 だから、彼女は見る事が出来なかった。知る事が出来なかった。


「いやああああああああ! お姉さまあああああ!!」


 自分の為に涙を流し、泣き崩れてしまった妹の姿を。自分を犠牲にするなんて言うこの選択は、絶対に間違っていたのだと。

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