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TS転生のじゃロリじじい聖女の引きこもり計画  作者: こんぐま
第六章 王位継承権の行方
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償い

 ネモフィラの目の前に現れたルッキリューナ。脱衣事件以来の久しぶりに見たその姿はやつれていて、貴族では無く平民の衣装を着ていた。目は少しうつろで、どこか不気味。左手に短剣を持っており、頭上には丸い球が浮遊している。

 彼女が使うそれ、丸い球こそが魔装ウェポン大脱装リムーブボールぜつ】。どう言うわけかパワーアップしていて、元々は装備だけを消す力だったものが、人を消し去ってしまう力へと変わっていた。

 ヒルグラッセに抱えられて難を逃れたネモフィラはその力に驚き、自分の代わりに消えてしまった平民の事を思い顔を青ざめさせた。ヒルグラッセはそんなネモフィラと、もう一人、同じく抱えていたリベイアを離して二人の前に出る。


「ルッキリューナ。ここへ何しに……いや。今の光は何だ? 人が消えたように見えたけど、まさか最近起きている行方不明者の原因がそれでは無いだろうな?」

「さっきも言ったでしょ? 私の進化した魔装ウェポン大脱装リムーブボールぜつ】って。人を消せる力を得たの。勿論前と同じで、消してしまったものは二度と戻って来ないわ」


 ルッキリューナが左手に持っていた短剣を右手に放り投げて掴み、ニヤリと笑みを浮かべて構えると、ヒルグラッセも魔装ウェポン【振動の剣】を出して構えた。


「消した人は……二度と戻って来ないの……?」

「勿論」

「酷い……」

「なんと言う事を……」


 ルッキリューナの答えにネモフィラが顔を更に青ざめさせ、ヒルグラッセが目を鋭くしてルッキリューナを睨み見る。しかし、ルッキリューナはそれを見ても楽しそうに笑みを浮かべるだけだ。


「それよりも邪魔されちゃった事だし、遊んでないで早く本命を見つけないとよね」


 ルッキリューナはそう言うと周囲をぐるりと見回し、ヒルグラッセの少し左側の奥の方を見て「いたいた」と呟いて手をかざす。すると、その直後にルッキリューナの魔装ウェポンから光線が放たれて、貴族と平民の何人かが一瞬にして姿を消してしまった。その突然の出来事に近くで目の辺りにした参加者たちがパニックを起こし、そして、その先に見知った人物の姿が現れる。


「お姉様!」


 消えた人々の先にいたのは、ボーツジェマルヤッガーに連れられてバラムの許から逃げたサンビタリアだった。サンビタリアは目の前から突然人が何人も消えた事に驚いて、ネモフィラに呼ばれて目がかち合う。


「お姉様! ルッキリューナが失踪事件の犯人――」

「サンビタリア! やっと見つけた! お前のせいで私は人生のどん底を味わった! 家族に捨てられて大切なものを沢山失った! だから、お前も私と同じ大切なものを失う苦しみを味わわせてあげる!」


 ネモフィラの言葉をさえぎってルッキリューナが怒声を上げる。その姿はさっきとはまるで別人でルッキリューナの顔からは笑みが消え、怒りに満ち溢れていた。

 直後、サンビタリアは走り出す。逃げる為では無い。ルッキリューナが怒りの形相を自分からネモフィラに移したのを見て、嫌な予感がしてネモフィラに向かって走り出したのだ。

 ルッキリューナはニヤリと笑みを浮かべて、ネモフィラに手をかざそうとした。だけど、そうはさせない。手をかざされれば、その方角に人を消す光線が放たれる。と、ヒルグラッセが直ぐに駆け出し、ルッキリューナに向かって振動の剣を振るったのだ。

 だけど、それはまさかの方法で防がれる。


「元天翼学園生を舐めないでもらいたいわねえ!」


 ルッキリューナの動きはヒルグラッセを上回っていた。右手に構えていた短剣で振動の剣のつばの部分を一突きし、ヒルグラッセの攻撃を防ぐと回し蹴りを腹に入れて吹っ飛ばす。ヒルグラッセは床を転がり、手を床について立ち上がろうとしたけど、思いの外ダメージが高くふらついて膝をついた。

 ミアの護衛として何度か修羅場を潜り抜けたヒルグラッセだが、相手が悪かった。ルッキリューナはミアと戦って負けた負け犬の弱者なイメージだが、それは違う。

 あの時はミアが本気では無かったとしても、ルッキリューナ自身も相手が幼い少女と言うのもあって手加減をしていたし、本当の意味では本気では無かった。本気を出す前にミアがルッキリューナの魔装ウェポンの正体を暴くと言う勝利条件を手に入れてしまい、そのまま戦いは終わってしまっていたのだ。つまりミアが強すぎたと言うだけ。

 本来のルッキリューナは優秀な生徒だった。だからこそミアが凄い子供だと周囲に知れ渡り、その頃からネモフィラの近衛騎士だと言われるようになっていた。ルッキリューナと言う少女は、それ程に周囲に影響を与えるだけの実力があったと言う事。


「人外ばかりの実力者で溢れる学園にいた私を、お前みたいな三流が止められるわけないでしょう? そう言うわけだから、ネモフィラ様。貴女様を今の可愛らしいまま思い出にします。恨むなら貴女様の汚らわしいお姉さんを恨んでね」


 ルッキリューナが手をかざし、ネモフィラに向かって魔装ウェポンから光線が放たれる。

 ネモフィラは何も出来ない。恐怖で足が震え、逃げる事も出来ず、ただじっと自分の運命を受け入れる事しか出来なかった。ヒルグラッセは手を伸ばし、届かず、自分の無力を悔やむ。側にいたリベイアも恐怖で足がすくみ、ネモフィラを助けたくても助けられない。


「ネモフィラ!!」

「――っ!?」


 光線が当たる直前に体を押され、ネモフィラは光線を食らわなかった。しかし、その時にネモフィラの目に映ったのは、自分の体を押したサンビタリアの顔。ネモフィラの目が見張り、二人の目がかち合う。

 そして――


「これで……これでやっと…………貴女への罪を償えるのね……」


 ――サンビタリアは微笑み、そして、光線の直撃を受けて目の前から消えてしまった。

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