変質者との再会
ネモフィラの名前を呼び、ミアの家族を連れてやって来たミント。ミントの護衛を担当していたヒルグラッセとブラキも周囲を警戒するように現れ、ネモフィラはその様子にただ事では無い何かが起きていると感じる。
ネモフィラは一先ずリベイアの言う顔の知らない騎士を後回しにして、ミントに「何かあったのですか?」と話を促した。すると、ミントは周囲を確認するように視線を移した後、真剣な面持ちをネモフィラに向ける。
「父さまのお仕事に……ついて行って、魔人の国の貴族と会った事が……何度かあるん……ですけど、その時に……会った事がある魔人の貴族が……います。それに、その側に……ムーンフラワー事変……で逃げた犯人の一人がいたん……です」
「私も驚いたけど、捕まっていた時に見た男がいたんですよ」
ミントの言葉に続いて、ミアの母カサリーノが話す。どうやらカサリーノたちがムーンフラワーで捕まっていた時に見た男が、この社交界に参加していて、しかも魔人の国の貴族と行動を共にしていたのようなのだ。
魔人の国と言えば闇金会社の本社がある国だ。ムーンフラワー事変の残党と接触していて、この社交界に参加している。そして、事件が起きると言う噂。これは絶対何かある。繋がりがあるに違いないと、ネモフィラだけでなく誰もが考えた。そして、リベイアが知らない騎士の顔ぶれ。
「これ以上、ミアのご家族を巻き込むわけにはいきません。メイクー。貴女はミアのご家族を連れて、この会場を出て下さい」
「分かりました」
「私も行きます」
ネモフィラの判断は正しいだろう。これ以上ミアの家族を巻き込めば、取り返しのつかない事になるかもしれない。ブラキもそれを感じ取り、メイクーと一緒にミアの家族を安全な会場の外へと連れて行く。
ネモフィラはリベイアとミントも一緒に行った方が良いと二人に話したけど、この場に留まり、ミントはミアに伝えに行くとこの場を離れた。そして、リベイアはネモフィラに知らない顔の騎士を何人かに教えると、ランタナにも知らせて来ると言いこの場を去った。
この場に残ったのはネモフィラとヒルグラッセだけになり、ネモフィラは父親にもこの事をと思った時に、事件が起きた。
「俺の娘を返せええええええええええええ!!」
少し離れた場所から聞こえた怒声。何事かと視線を向ければ、そこには姉のサンビタリアと向かい合うようにして立っている貴族の男バーノ子爵。
バーノはナイフを持っていて、警備の騎士たちが集まりだす。周囲が何事かと注目し、ネモフィラも驚きつつもその場に立ち止まって様子を見た。
すると、嫌な予感がしたのだろう。ヒルグラッセが周囲を警戒し、ネモフィラにこの場を離れるように話しかけようとし、そのタイミングで騒ぎが起きた方角から人をかき分けてリベイアが戻って来た。
「ネモフィラ殿下。大変です。今そこで騒いでるバーノ子爵が平民と話をした後に急変して――」
リベイアは来て早々に慌てた様子で話し始め、その途中で悲鳴が上がる。突然の悲鳴に驚き、ネモフィラとリベイアが動揺すると、その次の瞬間にネモフィラと向かい合って立っていたリベイアの背後にいた人物が突然消えた。
「――っ!?」
ネモフィラは困惑した。会場内は既に混乱していて、だから、瞬きをしている間に視界の外にその消えた人物が移動しただけなのかとも思った。しかし、その人物の姿を目で捜したけど、全く見当たらない。それどころか消えた人物が立っていた場所に、知っている人物が代わりに立っていて、それに気がついて驚愕する。
「ルッキリューナ…………?」
そう。代わりに立っていたのはルッキリューナ。かつて天翼学園で暴走して事件を起こした犯人だ。ルッキリューナは不気味に笑みを浮かべ乍らゆっくりと近づいて来ていて、ネモフィラに向かって手をかざした。
その直後、ヒルグラッセがネモフィラとリベイアの二人を同時に抱えて横っ飛びし、二人が立っていた直線上に光線のようなものが煌めく。光線は獲物を捉えられずにそのまま伸びていき、ネモフィラの後方に立っていた平民を照らす。すると、次の瞬間には光線を当てられた平民の姿が音も無く消え去ってしまった。そして、それを目の辺りにした平民の家族らしき人物が、突然目の前で消えた平民に動揺と困惑を見せ、悲鳴を上げる。
「い、今のは……っ」
「あーあ。避けちゃった。せっかくネモフィラ様を可愛い今の姿のまま、私の思い出の中だけの存在にしてあげようと思っていたのに」
ルッキリューナは残念そうに告げると、舌なめずりをし、不気味な笑みを浮かべた。
「ネモフィラ様。貴女様は私の心の中で永遠に可愛いままにしてあげる。私の進化した魔装【大脱装・絶】で」




