少女たちの作戦
「社交界で事件が起きるのじゃ!?」
「はい。わたくしも最初はまさかと驚きましたけど、でも、本当に起こると考えています」
「そ、そんな……。貴族だけを狙ってる……のでは、なかったの……ですか……?」
「もしかして、貴族を狙った平民が犯人だった……と言う事でしょうか?」
話を少し遡り、少女たちの作戦会議。
最後の情報提供者ネモフィラの発表は、他の少女三人を驚かせるには十分な情報であり、お手柄だった。そしてその情報と言うのは、平民が参加可能な社交界で、何か良からぬ事をしようとしている輩がいると言うもの。かなり有力な情報なようで、情報提供者によると話の出所はサンビタリア派の貴族で、その貴族はこの話をした後に失踪してしまったようだ。
タイミングを考えれば、その話が事実であると言う証明になっている。そう考えたネモフィラは、この一件と失踪事件が関係しているのではと考え、ここで話したのだ。
話を聞くと、ミアは暫らく考え、そして提案する。
「ワシが囮になるのじゃ」
突然“囮”などと言われて困惑するネモフィラたちだったけど、その後ミアは犯人を確保する為の作戦を提案した。
◇◇◇
「その提案と言うのが、会場内の注目を集めている間に、他の皆に怪しい人物を捜してもらう。と言うわけね」
「うむ。それとサンビタリア派の者と接触するかどうかもじゃ。出来れば何事も起きぬように、何か動きを見せたら事件を未然に防ぎたいのじゃ」
話は現在に戻り、ここは社交界会場内。
ミアはジェンティーレに屈んでもらい、こそこそ話をするようにジェンティーレの耳に自分の口を近づけて、それを両手で隠すように話した後の事。周囲に怪しまれないように、少女がお姉さんに楽しい内緒話をしているように見せる為に、二人とも笑顔は絶やさない。説明を終えると、ジェンティーレは笑顔のまま小声で話し、ミアが頷いて話の補足をしたと言うわけだ。
「しかし、本当は一発芸などで目立って囮としての注目を集めるつもりだったのじゃが、そんな必要が無かったのじゃ」
「ははは。そうだね。君は何もしなくても、こうして目立っているから」
今度は普通に笑い話でもするように話し、ミアががっくりと肩を落とした。
「だけど、そうか……。私に何か手伝える事は?」
「気持ちだけ受け取っておくのじゃ。ムーンフラワー事変で捕まえておらぬ逃亡者が犯人の可能性もあるからのう。だから、実はワシの母上達に手伝ってもらっておるのじゃ。顔を覚えておるかもしれぬからのう。これ以上人員を増やしても逆に目立つと思うのじゃ」
「なるほど。それなら確かにそうかもしれないね」
「うむ。ジェティはワシの喋り相手にでもなってほしいなのじゃ」
「了解。じゃあ、せっかくだから、その行方不明になった失踪者たちについて話を聞こうかな」
「ふむ。別に良いが、興味があるのじゃ?」
「少しだけどね」
ジェンティーレが微笑み、物好きじゃのう。と、ミアが呆れ顔で視線を送る。とは言え、今一度ミアも事件の事を整理しておきたかったので、直ぐにジェンティーレに話し始めた。
「行方不明者はムーンフラワー事変以降に出ておって、天翼学園の生徒か卒業生の貴族ばかりなのじゃ」
「ばかり……と言うと、そうで無い者も行方不明になっているって事かな?」
「うむ。それに、殆どの者がサンビタリア殿下の派閥に入っておる」
「へえ。なら、犯人は逃亡者の他に考えられるとしたら、サンビタリア殿下に恨みを持っている人間だね。そうなると他派閥の貴族かな?」
「ううむ。それがのう。消えた者は、サンビタリア殿下の悪口を言っておる者だけなのじゃ」
「だけ……? と言うか確認なのだけど、サンビタリア殿下の派閥に入っているのに、悪口を言っているの?」
「うむ。調べた結果そうらしいのじゃ。まあ、被害者は学生や卒業生ばかりじゃ。派閥に入っておると言っても、それは親が入っておるからじゃろう。何も不思議では無いのじゃ」
「そうかしら? と言いたいけど、可能性の一つとして考えておくべきかもしれないわね。ただ、総合的に考えて犯人の可能性があるのは、悪口を聞く機会がある者……つまり“サンビタリア派の貴族”が一番可能性があるわね」
派閥はあくまでも親が入っているから。子供であればよくある話で、それはジェンティーレも納得出来る。それを踏まえた上で、ジェンティーレは断定せずに可能性の一つとしてまとめた。
すると、その時だ。
「俺の娘を返せええええええええええええ!!」
「「――っ!?」」
突然に聞こえた怒鳴り声。それはあまりにも突然で、そして憎悪を孕んだ怒声。
ミアとジェンティーレは……いいや。二人だけでなく、ミアに注目をしていた周囲も驚いて、一斉に声のした方へと視線を向けた。
「サンビタリア殿下……お前の……お前のせいで! 俺の娘が消えたんだぞ! 返せ! 返してくれ!!」
視線を向けた先にいたのは、サンビタリアと、ナイフを向けた貴族の男だった。




