少女たちの作戦会議 後編
ミントの目の前で失踪した子供。しかし、それは勘違いだったようで、ミントの護衛をし乍ら子供を捜していたチコリーが見つけていた。子供の身にいったい何が起きたのかと身構えて話を聞けば、チコリーから聞いた子供の様子は、とても平和なものだった。
消えた子供は消えたのではなく、ただ見失っていただけ。近くの屋台でマカロンを買い、一人だけマカロンを食べ友達と一緒に何処かへ歩いて行った。大きな声で話していたので僅かに会話を聞き取れたらしく、その会話を聞くと、子供は臨時収入が入ってそのお金でマカロンを買ったようだ。友達はそれを羨ましがっていた様子で、チコリーはそんな子供たちを見て安心したのだとか。
「しかし、何故それをミントに報告しなかったのじゃ?」
「申し訳ございません。その……そこまで気にしていたと思わなかったので……」
チコリーが申し訳なさそうに話すと、ミントがちょっと驚いた様子で何度も瞬きをして、チコリーでは無くクリアを見る。すると、二人の目がかち合い、何かを通じ合えたのか頷き合った。
「チコリーの言う通り……です。最初は気になった……けど、捜そうとは……思って無かった……です」
「私も捜すなんて考えを思いつかなかったです」
ミントに続いてクリアが弁解する。まあ、弁解と言っても、二人の正直な気持ちを言っただけだ。と言うか、ミントとクリアの二人にとっては、本当に捜すと言う考えが浮かんでいなかった。
しかし、それを責めるのも可哀想だ。ミントはまだ六歳で、クリアもまだ七歳。こんな幼い二人がそこまで頭が回るわけも無く、いなくなったから捜しに行こうなんて行動に出れなくても仕方が無い。
チコリーは見た目が幼いけど立派な大人なので気になった。それだけの話なのだ。とは言え、ミントとクリアはショックを受けた。
消えたから捜しに行くでは無く、消えたから報告しなきゃになった自分に、ちょっとした嫌悪を覚えた。でも、それでも消えた子供が無事であるなら、それは喜ばしい事。素直に嬉しいから、ミントもクリアもホッと一安心だ。だけど、安心した直後に再び疑問に思う。
(親子だと思ってたけど、違ったのかな……?)
ミントはそんな事を思い乍ら首を傾げたけど、出会った場所が公園だ。公園で出会った知らない子同士が遊んで仲良くなるように、男と子供も公園で出会ってただ一緒に遊んでいただけなのだろうと、まだ幼いミントは結論づける。だから、それ以上の話をする考えも浮かばずに、報告は以上で終わりだと終了した。
チコリーは何か腑に落ちない点があったのか少し表情にそれが出ていたけど、これ以上は立場的に話に入らない方が良いだろうと自己判断して口を閉ざす。
そうして話し合いは次の順番に回って来て、今度はミアの出番となった。
「次はワシじゃ」
そう言ったミアは、ニッコリと……いや。ドヤ顔になる。
「全然分からなかったのじゃ」
なんでドヤ顔した? と責めてやりたくなるミアだが、ここにいるのは基本ミアに全肯定しかしない少女たち。ミアの言葉に微笑むだけだ。
しかし、それを聞いていたミアの侍従たちは違う。特にルニィは優秀な侍女長さんなので、無能な主の為に行動に出て、微笑む三人の前に一枚の紙を置いた。そしてその紙には、失踪した者たちについて幾つか記入されている。
「そちらは行方不明になった者達の身辺調査の結果です」
「……やっぱり全員がサンビタリアお姉様の事を悪く言う方のようですね」
「それに、サンビタリア殿下の派閥に入っている者が多いのも気になります」
「本当……です。私は他の……派閥の人だと思って……ました」
ネモフィラに続いてリベイアが気になる点を話すと、ミントが少し驚いた表情で呟く。実際に書かれた内容通りであればサンビタリア派の貴族ばかりが被害にあっていて、その誰もがサンビタリアに対して悪口を言っていたようだ。
「ルニィさんはいつの間にこんな情報を集めたのじゃ?」
「ミアお嬢様が聞き込みをした後に別の質問をして答えを頂いたのと、私共侍従が元々所有している情報をまとめたまでです」
「流石はルニィさんなのじゃ」
「恐縮です。しかし、残念ながらそれだけです。行方不明者の共通点を調べればと思い行動に移したのですが、結局は何も分かりませんでした」
「十分だとは思うのじゃが……む?」
ミアは何かに気がついたのか、紙に書かれた内容をマジマジと見つめ、そして唸る。その様子にネモフィラたちが首を傾げると、ミアが「のう?」と呟いてから、ルニィに再び視線を向けて目をかち合わせた。
「全員ではないが、行方不明者の殆どが天翼学園の生徒か卒業生なのは偶然なのじゃ?」




