少女たちの話し合い
チェラズスフロウレス城の庭園には、濁りの無い真っ白なガゼボがある。それはお茶会をする為に建てられた屋根付きで壁の無い小さな小屋のような建物で、あるのは腰の高さ程度の柵と柱だけ。まあ、言うなれば東屋だ。そんなお城のガゼボには、お茶会用に机が一つと椅子が四つ備え付けられている。
ミアとネモフィラとミントとリベイアの四人はここガゼボでお茶会を開いて談笑し、楽しい一時を過ごしていた。話題は明日開かれるパーティーの話で、ミントとリベイアも参加する事になっているので、とても楽しみで余計に話が尽きない様子。しかし、ミアとネモフィラは二人に申し訳ないと思い乍らも、サンビタリアの事について話す事にした。
「二人に相談があるのじゃ」
そう切り出したミアに、ミントとリベイアが何だろうと首を傾げ、ネモフィラが話し出す。相談したのは、周囲がサンビタリアをどう思っているかを聞かせてほしいと言うものだ。
ミアとネモフィラは二人で話しあった後に、サンビタリアが周囲からどう思われているのかを調べようとなった。そして、丁度二人とお茶会をする予定があったので、思い切って二人が知っている事を聞き出そうと考えたのだ。
ミアとネモフィラは立場上そう言う話は周囲が気を付けてしないだろうし、聞こうとしてもはぐらかされてしまうだろう。しかし、ミントとリベイアは違う。確かに王族であるネモフィラと仲が良いけれど、ミアと違ってお城に住んでいるわけでもないし、まだ子供だ。ついうっかり油断して、二人が聞こえる場所でコソコソと内緒話や噂話をしていてもおかしくは無い。そう考えたミアがネモフィラに提案して、聞いてみようとなったのだ。
「サンビタリア殿下の噂は私の耳にも届いています。その噂をお父様の部下がしていて、とても怒っていました」
「むう。やはり噂は流れておるようじゃのう」
「はい。でも、少しおかしいのです」
「おかしいのじゃ?」
「どういう事でしょう……?」
「実は先日の事件以来、サンビタリア殿下の誹謗中傷をしている貴族が、何人か姿を消しているのです」
「なんじゃと!?」
「本当なのですか!?」
「はい……」
「あの……それ、私も知って……ます」
リベイアが頷いてミアとネモフィラが驚いて言葉を失うと、タイミングを見計らったのかミントが小さく手をあげて話に加わる。
「父さまが言っていた……んです。ムーンフラワーの……事件があって……から、行方不明者が多い……って」
「ぬう。サンビタリアさんはそれを知っておるのかのう?」
「……もしかしたら、知っているかもしれません。明日は大事な社交界がありますのに、今日も忙しそうに走り回っていました」
「あの事件は解決したと思っておったのじゃが、もしかしたらそうでは無いのかもしれぬのう」
「はい……」
ミアが顎に手を添えて考え込み、ネモフィラがサンビタリアを心配してか暗い表情を見せる。ミントは二人の姿に不安で顔を曇らしたけど、リベイアは真剣な面持ちを三人に向けた。
「私はサンビタリア殿下が毎日頑張っている姿を見てきました。人によっては迷惑だと感じている方もいました。それでも、どんなに嫌な顔をされてもご自分の罪を償おうとしている姿に、私は甚く感動しました。だから、あの事件は本当に許せませんでした。サンビタリア殿下をお慕いし、その努力を見てきたと言うのに、その結果がその努力を踏みにじる様な行為だったからです」
ムーンフラワー事変を本当に許せないのだろう。リベイアは形だけとは言え今でもサンビタリアの派閥に在籍しているからこそ、サンビタリアを支える為に行動し、その大変さを知っていた。ミアたちが国を離れて旅立っていた時も、サンビタリアの侍従たちと一緒にお役に立とうと頑張っていたのだ。
だから、自分と同じサンビタリア派のケレニーが、あんな事件を起こしてしまった事が許せない。あの事件のせいで再びサンビタリアへの悪い噂が流れて、それが本当に嫌で嫌で仕方が無かった。
「ネモフィラ殿下。私達に何か出来る事はないでしょうか? もしサンビタリア殿下がまだあの事件を追っているのなら、私はそのお手伝いがしたいです」
「リベイア……」
「わ、私も……私も手伝いたい……です。サンビタリア様……は、私にも優しくて……だから、助けたい……です」
「ミント……」
ネモフィラは姉の事をこんなにも思ってくれる友人たちに感謝し瞳を潤ませる。そこへ、ミアに「フィーラ」と呼ばれて視線を向ければ、笑顔のミアと目がかち合う。
「皆でサンビタリア殿下をお助けするのじゃ」
「はい!」
ネモフィラは笑顔で頷くと、衣装合わせをミアとしていた時に話した事を二人に話す。そして、話が終わると四人は頷き合い、善は急げとお茶会を終了して事件解決にと動き出した。




