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TS転生のじゃロリじじい聖女の引きこもり計画  作者: こんぐま
第六章 王位継承権の行方
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過去との決別

「ミアお嬢様。お願いします。私の手で決着をつけさせて下さい」

「チコリー……うむ。任せるのじゃ」


 勘違いした母コリンが現れ、チコリーに任せてミアが先を行く。ミアが走り去るのを見届け乍ら、チコリーは深呼吸を一つした。そうして気持ちを落ち着かせると、コリンの怒鳴り声が聞こえてくる。

 コリンは「どういう事!?」だとか「何故ミアを逃がしたの!?」だとかを喚き散らしていて、周囲には人の姿は無かったけど、こっちが恥ずかしくなるくらい非常に煩い。

 コリンの登場で存在感が薄くなった三馬鹿トリオのABCは、狼狽えた様子で固まっていた。


「何とか言いなさいよ! まさか貴女、裏切ったなんて言わな――っ! そうよ! 貴女が裏切ったから失敗したのよ! どうしてくれるの!? もう少しでヤハズの金を全て手に入れれる所だったのに!」

「……良かった」

「っ! 良かった? 良かったって言ったわね!? 何も良くなんてないわ! この親不孝者!」

「…………」


 怒鳴り散らすコリンと相反するように、チコリーはとても静かに怒っていた。

 チコリーの頭の中は母への想いや記憶が目まぐるしい程に甦っていて、そして、それ等は黒く塗りつぶされていく。黒く塗りつぶされた記憶には居酒屋で見た母の姿が無造作に貼られていき、母がとても醜くて汚いものに見えた。

 耐えられず、チコリーは父を殺したように母も殺そうと、弓を構える。すると、コリンの顔が一気に青ざめていき、恐怖で震え上がった。


「な、何をしようと言うの!? チコリーちゃん? 馬鹿な事は考えちゃ駄目よ! 私は貴女のお母さんなのよ!」

「もう、そんなのどうでもいい。ねえ? 知ってる? 私ね、お父さんを殺したんだよ? 知らなかったでしょ?」

「え……? 殺……した…………?」

「力じゃ勝てないから。こんな風に弓で殺したの。まあ、本当のお父さんじゃ無かったみたいだけど。でも、そんなのどうでもいいよね? 父親だと思ってた人を殺したんだ。今更本当の親とか私には関係無いんだよ」

「ま、待って!? 嘘よね? い、いや……。人殺――っきゃあ!」


 コリンが後退り、途中でこけて尻餅をつく。直ぐに立ち上がろうとするけれど、恐怖で足の力が入らず動けなくなった。


「お願い! チコリーちゃん! お母さんはチコリーちゃんを愛しているの! だから、これからはお母さんが今までの分たっぷりと愛してあげられるのよ! だから……ね?」

「いらない。貴女の愛なんて――っ」


 チコリーが母の顔を射抜こうとして矢を引いた時、前に出た弓にぶら下げている枝垂桜をモチーフにしてかたどられたアクセサリーが目に映った。それは侍従試験に合格して、ミアに合格祝いのプレゼントとして貰った大切な思い出の品。同期のクリアとムルムルと真剣に選んで、これからも頑張ろうと誓った証だ。


「お願い! 殺さないで! チコリーちゃ――――っ!!」


 放たれた矢がコリンの頬をかすり、そのまま地面へと突き刺さる。コリンは矢が掠った頬から血を流し、そのまま恐怖で放心して喋る事もままならなくなった。そして、母娘の様子を見守っていた三馬鹿が、意識はあるがピクリとも動かなくなったコリンに近づき生死を確認する。

 そんな中、チコリーは空をあおぐ。


「殺したくても殺せないよ。だって……」


 言葉にして、途端に涙が溢れてくる。そして、悲しい感情と嬉しい感情がある事に気がつき、チコリーは戸惑った。でも、理由は直ぐに分かった。

 悲しいのは、大好きだった母親は最初からいなかった事。自分の思い描いた優しい母は幻想でまやかしだった。昨晩起きた出来事は本当は嘘だったんだと、きっと心の何処かでそうじゃないと期待していた。でも、やっぱり嘘じゃ無かった。目の前に現れた母は醜くて、自分を苦しめていた父と何も変わらなかった。だから、これ以上醜い母を見たくなくて殺そうと思った。

 自分を救ってくれた恩人にまで手を出そうとしていた事が許せなかった。それでも殺さなかったのは、枝垂桜のアクセサリーのおかげだ。アクセサリーが目に映った瞬間に、矢の狙いを変えたのだ。


(だって私は、ミアお嬢様……“聖女様の顔”なんだから。殺しなんてしたら、ミアお嬢様の事も、一緒に頑張ろうって誓った皆の事も裏切っちゃう)


 嬉しいのは、新しく大切な人達が出来たから。心の底からそれを実感したのだ。

 チコリーは空を仰ぎながら静かに泣いて、母親との決着……過去の自分と決別した。

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