哀れな三馬鹿
時間は少し遡り、ミアとチコリーが居酒屋ムーンフラワーに向かっている頃。二人の前に、あの三馬鹿トリオのABCが現れた。チコリーは初めて見る顔なので警戒したけど、ミアからしたら見知った三馬鹿なので警戒はしない。代わりに邪魔と言いたそうなジト目を作り、三馬鹿のリーダーAに視線を向けた。
「なんのようじゃ? ワシ等は急いでおるのじゃ」
「そ、その格好……それに後ろの姉ちゃん……。お前……じゃなくて、お嬢様はお城の関係者の方でいらっしゃったのですか……?」
ミアは王家の紋章が刺繍されている衣装を着ていて、チコリーは王国騎士の紋章が入った胸当てをしている。この国に住む者なら平民だろうが誰であろうが分かる姿で、AだけでなくBとCは震え上がった。その様子にミアが面倒そうに顔の表情を歪め、チコリーが前に出る。
「このお方はネモフィラ殿下の近衛騎士ミアお嬢様だ」
こらこら。情報を簡単に漏らすんじゃありません。って感じのチコリーの行動だけど、彼女自身も今は母親のせいで恩人の家族がピンチの状態で焦っているのだろう。今は一刻の猶予も無い。ミアの立場を言えば直ぐに道を開けると思い、つい言ってしまったのだ。
だけど、それが逆に仇となる。三馬鹿は本当に今の今までケレニーたちの計画を何も聞かされていなかったようで、顔面蒼白で更に震えた。
「あ、兄貴ぃい! もうお終いだあ! 貴族どころか噂の近衛騎士だったなんて! やっぱり敵に回しちゃ駄目な奴だったんですよお!」
「なんなんだよ。ちくしょう。利子無しで一括返済をさせるだけで良いって聞かされて、返して貰った金は全部報酬で良いって言うから引き受けた旨味があって楽な仕事だと思ったのによお! 割に合わねえどころの騒ぎじゃねえぞお!」
「ば、馬鹿野郎! おめえら! 騒ぐんじゃねえ!」
何やら騒ぎ出す三馬鹿。その様子にミアが呆れていると、Aが緊張した面持ちで一礼した。
「すまなかった! ロノウェに協力した事は認める! だから許してくれ!」
「……ふむ? すまぬが何の話か分からぬのじゃ」
「わ、分からねえって……あれ? 借金の上乗せしに俺達に報復しに来たんじゃ……?」
「ぬう。どこ情報じゃ?」
「え? 今朝招集があってコリンキーに言われたんです。コリンキーがお嬢さんを捕まえた娘とケレニー様と一緒にムーンフラワーに来なかったら、それは失敗の合図だから借金が上乗せされるって」
「……意味が分からぬのじゃ」
そう言ってミアがチコリーに視線を向けると、チコリーも首を横に振るう。だから、気になって説明させたところ、この三馬鹿も少し哀れな連中だと言うのが分かった。
まずは借金を背負ってしまった後に上司に相談しに行ったところ、コリンとロノウェに話しかけられたそうだ。この時にコリンとロノウェは三馬鹿を利用しようとしたのだろう。まずは計画をある程度知っている上司を三馬鹿から引き離す為に、別件で忙しいと聞かされた。そして、三馬鹿の様子を見たコリンに心配されるような言葉を言われて、そのまま二人と話をしたそうだ。
二人は三馬鹿にミアの護衛がコリンの娘である事を教えて、ミアが油断している早朝に捕まえる予定だと話した。娘はミアを連れてヤハズの家に向かい、コリンと合流して浮気の責任を取らせる作戦になっている事も話す。次に、誓約書を作成する為に会社に行き、そこでケレニーと合流。その後はムーンフラワーに連れて行くから、三馬鹿の好きにすれば良いと伝えられていたようだ。
但し、上司にはこの事は内緒にしろとまで言われていた。出来るだけ誰にも言わずに計画を実行する事が、成功させる秘訣だからと。それに万が一にも失敗すれば、三馬鹿も仲間だとバレる事になり、報復として借金が上乗せされるだろうと話を聞いていた。
なんともまあ馬鹿げた計画だけど、三馬鹿はそれを信じていた。だけど、計画が成功すれば報酬を出すので、借金は全部チャラになると聞かされて舞い上がっていたようだ。そうして今か今かと待ちわびた三馬鹿は待ちきれなくて、様子を見に来てしまったのだ。
「お主等本当に馬鹿じゃのう……」
ミアが呆れて呟くと、三馬鹿は汚い顔で泣き始める。だから、無視して先を急ごうと考えたその時だ。
「チコリー!?」
背後から声が聞こえて振り向けば、そこには大量に汗を流して、肩で息をしていて疲れた様子のコリンが立っていた。ヤハズの家から逃げた彼女は、ブラキから何とか逃げきりここまで来たのだろう。ブラキの姿はそこには無い。しかし、それよりもだ。何を勘違いしたのか笑みを浮かべた。
「あははははは! ほらごらんなさい! 最後に笑うのは私! ミアは捕まえたようね! よくやったわチコリー! これで私も貴族の一員だわ!」
コリンの言葉にミアが冷や汗を流し、三馬鹿は呆気にとられた。そして、コリンとミアの間に立つようにチコリーがゆっくりと歩いて行き、静かに告げる。
「ミアお嬢様。お願いします。私の手で決着をつけさせて下さい」




