それぞれの報告
「……え? 借金取りが借金を背負ったのですか?」
「うむ。金貨百枚を直ぐには払えないと言っておったので、他の金融機関でお金を借りる事を許してあげて払わせたのじゃ。めちゃんこ泣いておったのう」
お金を借りる事を許してあげるとは? と言う感じのミアの意味不明な言葉はともかくとして、雑貨屋での借金取り事件があったその日の夜。夕食中にミアが雑貨屋での事を話すと、ネモフィラが目をパチクリとさせて驚いた。
ミアの言う通り借金を背負わせた事で、最後には彼等もすっかり憔悴しきっていた。更には、二度とヤハズの雑貨屋に関わるなと釘を刺しているので、恐怖を植え付けられた彼等が関わる事は二度と無いだろう。
「あ、あの、それで……ヤハズのお怪我とコリンとロノウェはどうなったのでしょうか?」
「ヤハズおじさんの傷はポーションで治したのじゃ。コリンさんは借金取りにお金を払わせておる時に帰って来て驚いておったのう。ロノウェは失踪中なのじゃ」
「失踪……」
ネモフィラが冷や汗を流して呟くと、食事をし乍ら話を聞いていたランタナが苦笑して、食事の手を止める。
「ミアは相変わらず凄いね。借金取りに借金させるなんて普通は思いつかないよ」
「たまたまなのじゃ。元々はヤハズおじさんに渡した万能ポーションで借金を返させるつもりだったしのう」
「でも、あの時ミアが渡したポーションが、こんなにも早く役に立つとは思いませんでした。ミアは始めから分かっていたのですか?」
「分かってはおらぬのじゃ。何となく嫌な予感がして保険をかけただけじゃ」
「それでも凄いです」
「本当にね。流石だよ」
ネモフィラとランタナが褒めると、ミアは少し照れて頬を染めてから、残っていた料理を楽しそうに平らげた。
「でも、ロノウェが失踪してしまったのならコリンが心配ですね。何も無ければ良いのですけど……」
(ううむ。ロノウェは妙に怪しいし、そこ等辺はどうでも良いのじゃが……まあ、フィーラには言わない方が良いじゃろう)
顔を曇らせるネモフィラには何も言わず、ミアは「ごちそうさまなのじゃ」と言って席を立つ。すると、それと同時に食堂の扉が開かれて、ミアの故郷まで謝罪活動をしに行っていたサンビタリアが帰って来た。
「帰ったわよ」
「おお。サンビタリア殿下。久しいのう。おかえりなのじゃ」
「ただいま。ミア」
サンビタリアはミアに笑顔を向けると、直ぐにウルイやアグレッティとランタナとネモフィラに視線を向けてから、ミアに視線を戻した。そして、ネモフィラたちが「おかえり」を言う前に言葉を続ける。
「ミアは食事が終わっているみたいね。丁度良いわ。話があるの。今から私の部屋までついて来てくれないかしら?」
「ふむ? 別に良いのじゃ」
「ありがとう」
サンビタリアはニコリと笑むと、ウルイたちに再びを視線を向けて「そう言う事だから」と食堂を出て行き、それをミアが追いかける。すると、侍従たちが慌てた様子で追いかけた。
「何だったんだろう……?」
「さあ……っあ。それよりお兄様。お姉様の帰りが少し早いと思いませんか? 本当だったら、わたくしとミアが学園に通う少し前に予定しているパーティーの直前に帰って来る予定でしたのに」
「そう言えばそうだね。何かあったのかな?」
ネモフィラとランタナは食事を中断して、ミアたちが出て行った扉を見つめ乍ら首を傾げた。
◇◇◇
サンビタリアの寝室に辿り着くと、お茶の準備がされていたようで、ミアはサンビタリアと向かい合うように座った。そして、サンビタリアは紅茶を一口含んで落ち着くと、真剣な面持ちをミアに向ける。
「実は面倒な事が起きていて、ミアにはそれを知ってもらいたいの」
「面倒な事なのじゃ?」
「ええ。実は……」
サンビタリアはボーツジェマルヤッガーやツェーデンから聞いた話をミアに伝えた。ミアは話を聞くと段々と表情を変えていき、誰が見ても分かるくらい面倒とでも言いたげな顔になる。サンビタリアもそれは予想していて、全てを話し終えると苦笑した。
「どうする? いっそミアの秘密を言ってしまえば、直ぐに解決出来る話ではあると思うのだけど」
「ぬう。それは避けたいのじゃ。既に千人近くも集まっておるのじゃろう? ケレニーに教えたところで、他の者にも説明をせんと収拾がつかぬのじゃ。ワシはそんなにも多くの者に秘密を明かしとうないのじゃ」
「ミアならそう言うと思ったわ。だから、他に策を考えなくちゃいけないのよね。でも、ごめんなさい。結局良い方法は思いつかなかったの」
「それは仕方が無いのじゃ。とにかく、この件はワシも考えるのじゃ。知らせてくれてありがとうなのじゃ」
一先ずはこの件は保留となり、それからミアはサンビタリアと故郷の話で盛り上がった。




