変態侍女のお家騒動(1)
月日は流れ、他国では春の訪れを感じる季節“子の月”。この頃になると来月から学園に入学となるので、それまでは勉強を休もうとなって、ミアは自由気ままな毎日を過ごしていた。と言っても、一日中をダラダラ過ごしていたわけでは無く、学園前の準備で慌ただしい日々だ。
そしてそんなある日の事。ムルムルの祖父母と名乗る人物がチェラズスフロウレス城へとやって来た。その日は口煩いルニィママが休暇を貰っていて城にはおらず、ミアはベッドの上でゴロゴロと転がって怠けていたので飛び上がる。直ぐにルニィ以外の侍従を連れて応接室へと行けば、そこにはお爺さんとムルムルの目元と顔が似ているお婆さんが椅子に座らされて待っていた。
「ムルムル! 良かった! 漸く会えた!」
「ムルムルちゃん! 本当に……本当に心配したのよ……っ」
お爺さんは一番最初に応接室に入ったミアには目もくれず、その後直ぐに入って来たムルムルを見て歓喜し立ち上がる。お婆さんはムルムルを見た瞬間に涙を流して喜んだ。そんな二人の姿にミアが微妙に罪悪感を感じつつもムルムルに視線を向けたけど、当の本人ムルムルは「あっは。大袈裟~」なんて言って笑っている。
なんちゅう孫だと思い乍らも、ミアはムルムルの祖父母の為に空気を呼んで応接室を出る。もちろんムルムル以外の侍従も一緒に出てもらい、念の為に護衛のヒルグラッセだけを中に残した。
「ミアお嬢様はお話を一緒にお聞きしなくて良かったんですか?」
応接室の扉の前で待機していると、クリマーテが首を傾げて聞いて来るので、ミアは頷いた。
「家族との再会はゆっくりとさせてあげたいのじゃ」
「それもそうですね」
「それより、こうなるとムルムルは学園には連れていけぬのう。態々孫の為に来てくれたのじゃ。その想いを無下には出来ぬ」
「じゃあ、ムルムルは二人に渡して帰ってもらうんですか?」
「それが良いじゃろう。ムルムルの為にもなるしのう」
ミアの意見には侍従たち全員が同意する。ムルムルは自分から奴隷の道を選び、ミアに買われた見た目が大人な十歳の少女だ。両親がいないとしても、祖父母がいるなら祖父母の許で暮らした方が絶対にいい。それが彼女の幸せだろうと、誰もが思った。でも、そんなミアたちの気持ちを全部台無しにする者がいる。それはムルムル本人だった。
「え? 帰りませんけど?」
時間を置いてヒルグラッセが扉を開けてミアを呼んだので中に入って、祖父母と一緒に帰っていいとミアが伝えると、ムルムルは不思議そうな顔でそう答えた。これにはミアを含め侍従たちがポカンと口を開けて驚いて、ムルムルの祖父母も肩を落とした。
「ミアお嬢様。そんな事より紹介します。私のお婆ちゃんとお爺ちゃんです。お婆ちゃんとお爺ちゃんにも紹介するね。こちらが私のご主人様のミアお嬢様です♪」
「そ、そんな事……」
「孫がお世話になっています」
「お話は聞きました。大変よくして頂いているようで、本当にありがとうございます」
開いた口が塞がらないミアに、深々とお辞儀をするムルムルの祖父母。ミアもそれを見て慌ててお辞儀して、それを見たムルムルが「やだあ。ご主人様ってば。頭なんて下げなくて良いですよ」なんて面白おかしく笑いながら喋った。そんなムルムルの様子にブラキがドン引きし、チコリーが軽蔑の眼差しを向け、クリアが困惑する。クリマーテはちょっと笑いを吹き出しそうになっていたけど耐えていて、ヒルグラッセは無表情で立っていたけど冷や汗を流していた、
「一先ずお茶でもし乍ら話すのじゃ」
ミアが告げると、いつの間にか既に準備していたクリマーテがそれぞれの前に紅茶を置いて行く。と言っても、席についているのはミアと主役のムルムルと祖父母のみの全部で四人分だ。他の侍従はいつも通りミアの側に立っていて、それぞれの役割を担っている。クリマーテとクリアで給仕を担当し、ブラキは記憶係。ヒルグラッセはミアの側に立ち、チコリーは扉の前で待機だ。
その様子をムルムルの祖父母が緊張した面持ちで見つめていた。そして、少し躊躇うような表情を見せた後に、祖父が真剣な眼をミアに向けた。
「孫は……ムルムルはこう言ってますが、この子を連れて帰りたいと思っています。勝手な事を言っているのは分かります。ですが、どうかお願いします。ムルムルを返して下さい!」
そう言って、祖父は深々と頭を下げた。




