聖女の誕生日(5)
誕生日パーティーが閉会して半刻程の時間が経った夕暮れ時。ミアは平民の姿に変装をして、同じく変装をさせたネモフィラとルニィとヒルグラッセとルティアとメイクーを連れて、城下町へと足を運んでいた。その理由は家族に会う為だ。
ネモフィラがミアに内緒で家族を呼んだわけだけど、誕生日パーティーは練習を兼ねたものだったので、そこまでゆっくりとお話が出来なかった。母や兄もせっかく来たのだから一泊して観光がしたいと言っていたので丁度良く、改めて家族と会い、一緒に食事をしようとなったのだ。
ただ、それなら城で寝泊まり出来るように部屋を準備するとネモフィラが言ったけど、城の中は堅苦しくて居心地が悪いとの事で、丁重にお断りされてしまった。ネモフィラはとてもがっかりしたけど、ミアはその気持ちが滅茶苦茶分かるので「仕方が無いのじゃ」と了承した。
そんなわけで、適当な待ち合わせ場所を決めて、ミアは家族と改めての再会を果たした。のだけど、ミアの家族はネモフィラの存在に気付くと緊張した面持ちになった。理由は、ミアが連れて行くと言っていなかったからである。
「こ、この度は娘の誕生日パーティーに誘って頂いてありがとうございました」
「いえ。わたくしの方こそ、来て頂けてとても嬉しかったです。カサリーノ小母様、デノン小父様、エンド様、ありがとう存じます」
ネモフィラが頭を下げ、王女に頭を下げさせてしまった事に驚愕して顔を真っ青にさせる母カサリーノと父デノンと兄エンド。その姿にミアは可笑しそうに笑う。
「父上も兄上も面白いのう。そんなに気にしなくて良いのじゃ」
「気にするよ。て言うか、なんで王女様までいるんだよ? それにこの人達は……?」
「ワシの侍従のルニィさんとグラッセさんじゃ……あ。ヒルグラッセさんなのじゃ」
「ど、どうも。ミアの兄のエンドです」
ミアが一先ず自分の侍従から紹介すると、エンドが緊張した面持ちで頭を下げ、ルニィとヒルグラッセも挨拶をした。すると、それを見ていたミアの信者が痺れを切らして前に出る。
「ミア様のお兄様! 私はメイクー=ラベンダーと言います。どうぞよろしくお願いします!」
「は、はい」
「メイクー。抜け駆けは禁止です。わたくしはネモフィラ=テール=キャロットです。先程の会場ではゆっくりご挨拶が出来なくて申し訳ございません。ミアとはとっても仲良くさせて頂いています」
「――っ!?」
ミアの信者メイクーに続いて、王女のネモフィラまでもが競うように頭を下げて自己紹介をし出す。パーティー中はまともに自己紹介が出来なかったので、二人ともミアにちゃんと紹介してもらうのを待ち望んでいたのだ。
ただ、二人の行動に……と言うか、再びネモフィラに頭を下げさせてしまった事にエンドどころか両親まで衝撃を受け、顔を青ざめさせて動揺した。そして、周囲の目が気になったのか三人でキョロキョロと周囲を確認し、そこ等に疎らにいる通行人たちを見る。誰も自分たちに注目していないのを知ると、安堵の息を吐き出してデノンがネモフィラに頭を下げた。そしてそれを見て、カサリーノとエンドも続く。
「も、申し訳ございません。王女様にとんだ無礼を!」
「っ!? ど、どうしたのですか? わたくしは何もされていませんけど……?」
「落ち着くのじゃ。せっかく一般人に変装してるのに、そんなに騒いだら注目されてバレてしまうのじゃ」
「そんな事を言ってもなあ。王女様に頭を下げさせるなんて。こんなの知れたら大変な事になってしまう」
「デノン小父様。そんな事はございません。わたくしよりミアの方が立ち場は上なのです。ですから、ミアのご家族であるデノン小父様とカサリーノ小母様とエンド様は頭を下げる必要など無いのです」
ミアの方が立ち場が上。父親は一瞬なんの事か分からなかったけど、直ぐに娘が“聖女”である事を思い出す。正直ミアが相変わらずすぎて忘れていたようだけど、こんなのでも一応は“聖女”だ。
しかし、それとこれとは話が別。それならなんて気持ちにはどうしてもなれない。とは言え、ここまでネモフィラに言わせてしまったのだ。これ以上それは出来ないと言い張るのは、それはそれで失礼だとデノンたちは感じた。するとそこで、ミアが周囲をキョロキョロと見て、デノンにジト目を向けた。
「父上が煩いから注目され始めたのじゃ。さっさと場所を移すのじゃ」
騒いだ事で周囲の目がこちらに向けられ始めてしまい、ネモフィラの正体がバレるのも時間の問題になってしまっている。だから、そうなる前にとミアたちは直ぐにこの場を離れる事にした。




