聖女の誕生日(2)
「誕生日パーティーと言うよりは結婚式の披露宴みたいな感じなのじゃ」
誕生日パーティーが予定通りに進んでいき、主役席で待機の時間。参加者たちは参加者同士での会話を始め、何人かはミアに挨拶に来ていた。と言っても、挨拶に来るものは多くない。おかげで暇な時間もある程度は出来ていたので、そうした時間にミアが呟いて目の前にあったオレンジジュースを一口飲んだ。すると、隣に座っていたネモフィラが、ミアの言葉に首を傾げた。
「結婚式の披露宴に参加した事があるのですか?」
「うむ。もう何十年も前の事じゃが、ワシも新ろ――っゲフンゲフンッ」
はい。久々にやらかしました。このアホ……じゃなくてミア。五歳児改め今日から六歳児のくせして、何十年も前の事ってなんやねんである。しかも、後もう少しで「新郎として参加したのじゃ」と言いそうになっていた。マジで隠す気あるのか? いい加減にしろ。と言う感じである。
「い、言い間違えたのじゃ。な、なあ……な、何十回も参加した事があるのじゃ」
「わあ。凄いです! そんなに参加した事があるのですね?」
「う、うむ。ワシが住んでおった田舎は、皆が家族みたいなものじゃからのう。毎日が結婚式なようなものじゃ」
「うふふ。とても仲が良いのですね」
毎日結婚式は流石に言いすぎだろ。って感じだけど、ネモフィラはお利口さんでしかも素直でいい子な性格なので、それを疑問に思わず受け取った。もしネモフィラがひねくれた子供であれば、必ずツッコミが入っているだろうけど、とにかく難を逃れたミア。焦りで大量に汗を流しつつも、額に浮かんだ汗を腕で拭って、ルニィに行儀が悪いと睨まれる。因みに今日はミアの誕生日なのでルニィも少し甘くなっていて、後から叱るなんて事もなかった。
「ミアが参加した披露宴はどのようなものだったのでしょう?」
「そうじゃのう。ご祝儀を貰っておる受付の横に立って挨拶をした……していたのじゃ。披露宴が始まってからも、途中からはこのように座って、友人や知人が挨拶に来て……行っておったのう」
「確かに今と状況が似ていますね」
「うむ。だから、まるでワシがフィーラと結婚して、皆が挨拶に来ておるみたいな気持ちになったのじゃ」
「――――っ!?」
(わたくしとミアが……結婚…………っ!?)
この時、ネモフィラの脳内に稲妻が落ちる。ミアが告げた“フィーラと結婚”と言う言葉に、ポンッと頭が弾けるような感覚。そして、頭に血が登っていき、頭がぐつぐつと煮えたぎっていくような感覚。ネモフィラの顔は真っ赤になり、“結婚”と言う二文字が脳内を支配した。気が付けば、どんな原理なのか謎だが、ネモフィラの頭からモクモクと煙が立ち上がる。
「フィーラ……?」
「――っ!」
ミアに呼ばれてハッとなり、ネモフィラは頬っぺたを両手で押さえてギュッと目をつぶった。するとそんな時だ。何ともいいタイミングで、ネモフィラがミアの為に準備したサプライズがやって来た。
「ミア。久しぶりね。元気にしていた?」
「っ! は、母上!? なんでこんな所にいるのじゃ!?」
ミアの為にネモフィラが準備していたサプライズとは、ミアの母親の訪問……否。ミアの家族全員の訪問だったのだ。ミアが母親の登場に驚いていると、その背後からは父親と兄まで登場する。まさかの家族との再会にミアは驚くだけ驚くと、とても嬉しそうな笑顔になって立ち上がった。そして、その隣に座っていたネモフィラなのだけど、はい。
(お義母様とお義父様とお義兄様にわたくしとミアが結婚した事を言わなくてはいけません!)
してません。
「きょ、今日はわたくし達の結婚の為に来て頂いて有難う存じます!」
「……え?」
勢いよく立ち上がり、突然意味の分からない事を言うネモフィラと、それを聞いて困惑するミアと家族たち。パーティー会場内が騒がしい中、この場だけに静寂が訪れた。そしてそれから数秒後、正気に戻ったネモフィラが、ものすっごい必死に謝り倒したのだった。
(わたくしのバカ! 何を言ってるのですか! わたくしとミアは女の子同士なのですよ! ミアのご家族に見苦しい姿を見せてしまいました。恥ずかしいです。うぅ……)




