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TS転生のじゃロリじじい聖女の引きこもり計画  作者: こんぐま
第六章 王位継承権の行方
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複雑な親子

 雑貨屋からの帰り道に出会った雑貨屋の妻コリンに話しかけられ、その姿を見て「お母さん」と呟いたチコリーは、複雑な表情をしていた。嬉しさや悲しさ等の様々な感情。普段の不愛想な顔からは信じられない程に、そんな感情の詰まったものだった。

 コリンは荷物を地面に落として動揺していた。その顔から嬉しさが感じ取れない。感動の再会とはいかず、ぎこちない笑みだけがコリンの顔からうかがえた。コリンは直ぐにチコリーから視線を逸らし、ミアと目を合わせた。


「ミアちゃん。ごめんね。早く帰らないと夫が待っているから」

「う、うむ……」


 ミアが頷くと、コリンは荷物を持ち上げて逃げるようにこの場を去って行く。その後ろ姿をチコリーが何とも言えない悲しみの表情で見つめ、ミアは心配し乍らチコリーを見つめた。


「あの女の人、チコリンのママなの?」

「ううん。違うみたい……」


 ムルムルの質問を目に涙を浮かべてチコリーが否定した。




◇◇◇




「と言う事があったのじゃ」


 夕食の時間にミアがチコリーの事を話した。今はチコリーとクリアとムルムルが休憩中で、給仕をしているのはルニィとクリマーテ。護衛はヒルグラッセ。ブラキは明日のミアの誕生日パーティーの準備の大詰め中で、食事後に合流予定だった。だから、今の内にチコリーの件を話してしまおうと考えたのだ。

 ミアが話すと場は少しの間だけ沈黙し、最初に沈黙を破ったのはサンビタリアだ。


「本人の言う通り見間違いと言う雰囲気では無かったのよね?」

「うむ。コリンおばさんはチコリーを始めて見た筈なのに名前を呼んでおったし、様子がおかしかったのじゃ」

「だったら本当にチコリーの母親だったのでしょうね」

「ワシもそう思うのじゃ。しかし、チコリー自身は否定しておる」

「本人は否定してるの? なら、とりあえずは何もしない方が良いかもしれないわね」

「そんなのチコリーが可哀想です」


 突き放すようなサンビタリアの言葉に、ネモフィラが目を潤ませて訴えた。だけど、それをランタナがいさめる。


「気持ちは分かるけれど、私達は介入するべきでは無いよ。民を大切にする必要はあるけれど、一人一人の悩みを聞いていたらキリが無い。もしここで私達が動いてしまえば、今後全ての悩みに首を突っ込む必要が出てきてしまうよ」

「そうかもしれません。でも……」

「ランタナの言う通りね」

「そんな……」

「でも、ネモフィラの気持ちは分かるわ。それに、ミアの侍従の話だもの。助けてあげたいわよね」

「お姉様! はい! わたくしも助けてあげたいです!」

「……はあ。まあ、気持ちは分からなくもないけど。でも、それをして、他の民に知られた時になんて説明するの? 私はそれが一番の問題だと思うよ。まさか、身内の事だから特別。だなんて説明しないよね?」

「ランタナ。貴方最近生意気になってきたわね」

「おかげ様でね」

「二人ともやめないか」


 段々と喧嘩のようになってきたのでウルイが注意すると、サンビタリアとランタナはそれ以上何も言わず食事を再開した。正直言って空気が重い。ただ、こればっかりはどうしようもないかもしれない。

 実際にランタナの言っている事は間違いでも無いし、王族が一人一人の民の話を聞いて悩みを解決なんてしていられない。声を聞いて寄り添うのは必要な事だけど、それは民全体での話だ。個人の話では無い。それを考えれば、ランタナこそが正しくて、ネモフィラとサンビタリアが間違っているのだ。と言っても、ネモフィラはともかく、サンビタリアは十分それを理解しているのだけども。そしてそれは、相談を持ち掛けたミアも分かっていた。


「ワシは別にチコリーを助けてあげてほしいわけではないのじゃ」

「そうなのですか……?」


 ミアの言葉が予想外で、ネモフィラが驚いて尋ねると、ミアは「うむ」と頷いた。


「ワシは今後この件で何があっても、本人から頼まれない限りは、手出し無用としてほしいと思っただけじゃ」

「手出し無用……? ミアはそれでいいの?」


 ランタナが困惑して話すと、ミアは「うむ」と頷く。そして、少し考える素振りを見せ、言葉を続けた。


「これは家族の問題じゃ。第三者がお節介するものでもないのじゃ。家族会議で言わないのも、どうこうしてほしいと言うわけでは無いからじゃ」


 ミアがこの話を持ち掛けた理由は、万が一この件で関わるきっかけが起きても、本人の希望が無いなら二人の関係を取り成す必要が無いと言うもの。勿論状況に応じては助けてあげてほしいけれど、基本は本人が望んでもいないのに余計な事をする事の無いようにと言うお願いだった。そして、それには全員が納得する。でも、ネモフィラだけは納得いかず、何かを深く考えていた。

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