予期せぬ再会
「ご主人様大好きです!」
「ありがとう……ございます…………」
「ミアお嬢様のお誕生日なのに私達がプレゼントを貰うなんて……すみません。ありがとうございます」
「合格祝いじゃし気にする事無いのじゃ。それにワシの誕生日は明日で今日では無いしのう」
ニコニコな笑顔で新人侍従の三人を見つめるミア。チコリーは相変わらず不愛想な顔だけど、その瞳は少し潤んでいて、頭を下げた。クリアは普段お金お金と言っているから満面な笑顔で喜ぶかと思ったけど普通に泣いていて、涙を流しながら笑っている。ムルムルは立場を忘れてミアに抱き付いていて、満面の笑みを浮かべている。そんな新人侍従三人の反応を見たから、ミアが満足してニコニコなわけだ。
因みに三人がミアにプレゼントされたのは、三人で相談して選んだもの。チコリーは最初こそ面倒そうにクリアとムルムルにつき合って選んでいたけど、気が付けば自分の意見をしっかりと言って話し合っていた。そうしてミアにも相談し乍ら選んだのは、ミアの苗字、つまりはラストネームをヒントにして選ばれた物だった。
ミアのフルネームは“ミア=スカーレット=シダレ”で、ラストネームは“シダレ”である。シダレと言えば枝垂桜を連想させ、この世界にも存在する桜だ。ここまで語ればお察し頂けるかもしれないけど、つまりは選ばれたアクセサリーが枝垂桜をモチーフにした物だと言う事。枝垂桜の花を思わせる形に加工された魔石が使われた装飾品で、ただ三人がそのままお揃いと言うわけでも無い。
チコリーは護衛騎士として持ち歩いている弓に付けるアクセサリーとして。クリアは侍女になってから着け始めた眼帯のデコレーション用アクセサリーとして。ムルムルは耳にハメるピアスのアクセサリーとして。つける場所は三人とも違う場所だけど、見た目や材質は同じ物。そんなお揃いを身に着けた三人は、とても嬉しそうに何度も何度もミアに感謝の言葉を送った。
しかし、こういった事情で実はこのお揃いのアクセサリーは特注品と呼べるような物。デザインの元である魔石自体はお店に置いてあるものだけど、三人の為にその日の内に店主のヤハズに加工してもらったのだ。おかげで出来上がる頃には随分と時間が過ぎてしまい、現在時刻は夕方の十六時を回った頃。城を出たのが午前中だったので、かなりの時間が経過していた。
「ヤハズおじさん。今日はありがとうなのじゃ」
「いやいや。ミアちゃんにはいつもご贔屓にしてもらってるからね。このくらいは当然の事だよ。それに、今日は妻も出かけていたし、お客さんもあまり来ない日だったから丁度良かったぐらいさ」
「そう言えばコリンおばさんを見んかったのじゃ。珍しいのう」
「二泊三日の旅行に友人と出かけていてね。今日帰って来る予定なんだよ」
「成る程のう」
ヤハズの説明に納得してミアが頷いていると、背後に立っていたムルムルが「チコリン?」と声を上げた。その声にミアが振り向くと、チコリーは何故か顔を青くさせていて、直後にミアと目がかち合う。すると、チコリーは直ぐにミアに頭を下げた。
「ごめんなさい。知り合いの名前に似ていたので……」
「謝る必要なんて無いのじゃ。それよりも顔色が悪――」
「大丈夫です。心配する必要は無いです」
「――っ。うむ……」
心配する必要が無いと言うが、明らかに顔色が悪い。何故か肩は震えているし、ミアだけでなくクリアやムルムルも心配になった。だから、用事も既に済んでいるし、ヤハズに「また来るのじゃ」と言って店を出た。とにかく今は早く城に帰って、チコリーを休ませて落ち着かせようとミアは考えたのだ。でも、そんな時だ。
「ミアちゃんじゃないの! ミアちゃあん!」
帰宅途中で不意に背後から聞こえた女性の声。振り向けば、そこには大きな荷物を持った女性が立っていて、ミアに向かって手を振っていた。その女性は顔見知りだったので、ミアは直ぐに笑顔を向けて手を振って近づいた。
「コリンおばさん。こんにちはなのじゃ」
「今日もお城を抜け出したの?」
「うむ。さっきまでコリンおばさんのお店におって、新人の侍従たちにお揃いのアクセサリーをプレゼントしたのじゃ」
「まあ。ふふふ。ミアちゃんは優しいわねえ」
コリンが三人に視線を向け、クリアとムルムルが直ぐに軽く会釈する。しかし、チコリーは何もしない。いや。正確には数秒遅れてから呟いた。
「お母さん……?」
と。そして、コリンは荷物を地面に落とし「チコリー……なの…………?」と呟き、呆然と立ち尽くした。




