奴隷三人娘の侍従試験(3)
新人侍従娘等三人の試験は、一日が終わる頃に漸く終わりを迎えた。ミアがベッドに敷かれた布団に潜り込んで顔をぴょこんと出すと、いよいよ試験の合否の発表となった。
「三人とも多少の問題はありますが、全員合格です」
「チコリーもクリアもムルムルもお疲れ様なのじゃ」
ルニィが合格を伝えてミアが笑顔を向けると、三人はホッと胸を撫で下ろした。この時ばかりはノリの軽いムルムルも緊張していたようで、いつものおかしな言動はしなかった。ただ、これで終わりでは無い。三人は見習いから正式に侍従になったけど、まだまだ覚える事はたくさんあるのだ。
「一先ずは合格おめでとう。ただ、今から今回の試験で気になった点を話すから、今後はそれ等を気を付けるように」
「「はいっ」」
三人が同時に返事をすると、ルニィがチコリーに視線を向けた。
「まずはチコリー。貴女はとても優秀で殆どミスも無い。とても素晴らしいわ。ただ、表情が良くないわね。護衛と言っても不愛想で良いとはならないの。無表情でいる事と不愛想でいる事は全く別よ。笑えとまでは言わないけど、今後はもう少し表情を和らげなさい」
「……はい」
「不満?」
「いえ。そんな事はございません」
と言い乍らも、チコリーからは不満気な雰囲気が漂う。すると、ルニィがヒルグラッセに目配せし、ヒルグラッセが前に出た。
「私達はミア様の護衛だから、表情なんて関係ないと思うかもしれないけど、貴女が思っているよりも重要な事よ。でも、ルニィが言ったように笑う必要は無い。けど、不愛想な顔は良くないわ。貴女は顔は可愛いのだから、笑顔の方が似合いそうだけどね」
「茶化さないで下さい」
「本当の事よ。ただ、一つ分かってほしいのは、私達はミア様の顔でもあると言う事よ」
「……ミアお嬢様の…………顔ですか?」
「そうよ。私達の態度が悪ければ、それは世間から見て主人であるミア様の評価を下げる要因になる。侍従の教育もろくに出来ない能無しの主人だってね。それは絶対にあってはならない事よ。それは分かるわよね?」
「はい……」
「なら良いわ。私からは以上よ」
チコリーへの指摘はこれで終わり。普段から不愛想な表情を見せている彼女は、ヒルグラッセの話を聞いて納得し、反省した。ヒルグラッセはチコリーの顔を見てそれが分かったから、これ以上言う必要は無いと思った。
因みにルーサとの事件は問題にはならなかった。実際にアレは試験中に話しかけてきたルーサに非があるし、なんならルーサはルニィに叱られている。ただ、対応の仕方はよろしくなかったけど、それは“ミアの顔”と言う言葉でよくない対応だったと十分理解出来ただろう。
「次はクリアね。クリアは緊張していたからと言うのも勿論あるけど、他の二人と比べてミスが多いわね。ただ、ミアお嬢様の髪を櫛で梳かす仕事は完璧だったわ」
「あ、ありがとうございます」
褒められた事が嬉しくてクリアが笑顔になった。でも、この後は何処でミスをしていたかをそれなりに長く聞かされて、最後にはシュンと落ち込んでしまっていた。とは言え、褒められた事が嬉しかったのは変わらない。クリアの目はこれからも頑張ろうというやる気に満ちていた。
そして、最後にムルムル。
「貴女は私語が多すぎよ。そこそこミスもあるし、もう少し集中力がほしいわね」
「そこは場を和ませようと思ってえ」
「必要ありません」
「はい……あ。他にはないんですか?」
「他……?」
他にはと聞かれて、他の二人は褒めたのにムルムルだけ褒めてないので、褒めてほしいのかとルニィは思った。けど、残念ながら褒める所が無い。
ムルムルは試験中ずっと喋っていて、そのせいでクリア程では無いけどミスもしていた。本当は合格にするのも悩んだほどで、ハッキリ言って成績は三人の中で圧倒的最下位。とは言え、ここは流石のルニィである。
「そうね……。ムルムルは貴女達三人の中で一番ミアお嬢様と仲が良くて場が和むわ。私語が多いのは問題だけど、クリマーテの様にそれが許される場面とそうでない場面の見極めさえ出来れば、とても優秀な侍女になれるわ」
「えへへ~。優秀ですかあ? そんなに褒められると困っちゃいますよ~♪」
どうやら満足したらしい。ルニィが仕方のない子ねと微笑んで、ムルムルはとても喜んだ。こうして奴隷だった少女たちは正式にミアの侍従となった。




