奴隷三人娘の侍従試験(2)
朝食の時間が終わってミアとネモフィラが勉学に励む時間になると、新人侍従三人の朝食の時間になる。でも、楽しい朝食の時間と言う雰囲気では無かった。チコリーとルーサの事があったから、少し気まずい空気が流れているのだ。
(食事の後は騎士用宿舎の掃除。護衛。食事休憩。護衛。護衛。護衛……。騎士は護衛ばかり……か)
チコリーは食事中も自分で書いたメモを見て、今日のスケジュールを確認していた。小さい頃に母親が夜逃げして、父親と二人で暮らしていたチコリーは、成人を迎えてから体を売っていた。このメモを残して予定を確認する行為は、その時の名残りだった。
そんなチコリーから少し離れた席に、クリアとムルムルが一緒に座って食事をしている。ただ、これは決してチコリーを除け者にしているからでは無く、チコリー自身が他者と関わる気が無いだけ。だから、離れた席にいるのも、チコリーが先に二人を避けて席に座ったからである。
「ね、ねえ。チコリーは怖くないの……?」
食事が終わり、クリアが少し距離をおいた場所から恐る恐る尋ねると、チコリーが冷めた視線を向けて直ぐに逸らす。
「なんの話?」
「あのルーサって人……。さっきあんな風に言ってたから……」
「本当の事を言っただけ」
「そうかもしれないけど……」
「チコリンって凄いクールだよね~。もっと笑おうよ」
「は?」
ムルムルの距離の詰め方はとてもエグい。とても嫌そうな顔したチコリーを前にしても、気付いていないのか気にしていないだけなのか、グイグイと距離を詰めて笑顔を向けた。気が付けばチコリーの鼻先とムルムルの鼻先が触れそうな程にまで距離が近づいていて、チコリーが不愉快とでも言いたげに顔を歪めて、ムルムルの顔を手で押して離れさせた。でも、ムルムルはそれすらも気にせず言葉を続ける。
「私とクリっちと違ってチコリンだけ護衛でしょ? だから、休憩の時間も被らなくて寝泊まりする部屋も違うし、今まで忙しくて話とかあまり出来なかったでしょ。だから、やっと話が出来るなって思ってたの」
「別に話す事なんて無い」
「えー。じゃあ、話聞いてくれるだけでいいよ~」
(なんなのこの子……)
チコリーが本気で迷惑だと思っているのに、それを察する事も無く、ムルムルはクリアを手招きした。
「ほらほら。クリっちもおいでよ。話しだけでも聞いてくれるって」
「うん」
「聞くなんて言ってない」
チコリーはため息を吐き出して、その場を離れようとし、やめる。離れる為に席を立とうとした時に、食事をしていたブラキと目が合ったからだ。実はこの時間にブラキも朝食をとっていて、食事の後にクリアとムルムルの試験の続きをする予定だ。そんな理由で朝食を食堂でとっていたのだけど、ブラキは中身が女の子であっても体が男の子なので、女の子同士の和に入らないように離れた場所にいたのである。
チコリーはブラキと目が合うと、この時間も試験に含まれるのかもしれないと思い、席を立つのをやめた。そして、面倒だと思い乍らも、クリアとムルムルの話を静かに聞いた。
それから暫らくして食事休憩の時間が終わり、試験が再開される。チコリーは騎士用の宿舎を掃除で、クリアとムルムルはブラキの監視の下で侍女用宿舎で掃除だ。この試験では速さだけでなく正確さも大事で、早く掃除が終わるだけでも駄目で、塵一つないくらいに綺麗でも遅ければ駄目である。侍女だけでなく近衛騎士までも掃除をするのは、聖女の騎士だからだ。聖女の騎士であるならば、専門外の事も一定のレベルを身に着けなければならず、それが求められている。だから、騎士だからと手を抜けば、間違いなく不合格となってしまうだろう。
(絶対に合格する。聖女様の侍女になって、私を捨てたお母さんを見返してやるんだ)
チコリーは密かに心の中で決心して、騎士の宿舎へと歩いて行った。




