新人侍従と友人の自己紹介
ミントを連れて城に戻って来たミアは、ルニィの指導を受けていた新人侍従の三人を捕まえて早速紹介する事にした。すると、ルニィは今の内に書類の整理をと席を外し、ルニィ以外の侍従が集結する。
「この子達が新しい護衛のチコリーと侍女のクリアとムルムルなのじゃ」
「はじめまして。ミアの友人のミント……です」
「チコリーです」
まず始めにとても不愛想な顔で名前だけ言ったチコリー。その態度にミントは少し怯えた。でも、ミアは笑顔だし、ミントは動揺して言葉が出ない。だけど、不愛想だと思ったチコリーが視線を逸らして「よろしくお願いします」と言葉を続け、ミントはホッと胸を撫で下ろした。
「う、うん。よろしくお願い……します」
(怖い雰囲気な人だけど、思ったより怖くないのかな?)
チコリーは未だに不愛想な顔をしていたけど、ミアは笑顔だしで、ミントは一先ずそう思う事にした。
「ミアお嬢様の侍女見習いのクリアです。ミント様のお話は何度か聞きました。とても仲の良いご友人と聞いていたので、会うのが楽しみでした。仲良くして下さい」
「うん。そう言われると嬉しい……です」
チコリーとは打って変わって好印象なクリアに、ミントは笑顔になって微笑み合う。ミアも二人を見てうんうんと頷いている。しかし、これには裏がある。
クリアは知っての通りお金目当てで奴隷の道を選んだ七歳児。ミントが公爵家の娘だと知っているので、仲良くしようと考えていたのだ。なんともまあ可愛げのない子供だけど、実はミアにはバレている。ミアはそれを知った上で気にせず紹介し、この笑顔なわけだ。とは言え、ミントをお金目的に利用させるつもりはないのだけども。
そして、満を持して最後の大トリの登場に、微笑んでいたミントの表情が固まった。
「どもどもー。ムルムルでーす。ミンミン。よろしくね♪」
「――っ!?」
(な、なんか凄い人きたああああ!)
ノリが軽いと言うかなんと言うか、いきなりミントにあだ名を付けているしで、困惑せずにはいられない。この場にいる誰もが言葉を失い、クリマーテとブラキが顔を真っ青にしていた。ヒルグラッセは無表情だけど、尻尾がピクリと少しだけ動いた。しかし、それでもミアは笑顔である。いや。それどころか「イエーイなのじゃあ」とか言い乍ら、ムルムルとハイタッチしている始末だ。
「え、えっと……」
「私こう見えても十歳なの。でも、この自慢のおっぱいでご主人様の枕になる為に頑張ってるんだ~」
(ど、どうしよう? いきなり話が飛んだし、何を言ってるのか分からない。でもって何? 十歳関係あるの? 確かにお胸は大きいけど、なんで枕? ま、まさか、ミア様を誘惑してネモフィラ様との恋を邪魔する気なの!?)
ミントが顔を真っ青にして震える。しかし、ムルムルの自己紹介は止まらない。
「え? なんでご主人様の枕になりたいか聞きたいかって? 仕方が無いなあ。教えてあげましょう」
「……え?」
(気になったけど口にしてない。心が読まれた!?)
読んでません。勝手に一人で盛り上がってるだけです。と、その時、ムルムルの背後に黒い影。
「楽し気な声が聞こえると思って来て見れば、ムルムル。貴女、自分の立場を忘れたの?」
「――っうげええ! 鬼教官!」
はい。鬼教官ことルニィママの登場です。そんなわけで顔を真っ青にさせたムルムルが、目が笑ってない笑顔のルニィに拉致られました。そんな二人を冷や汗を流して見送ったミントには、知る由も無いだろう。自分が家に帰った後に、一緒に羽目を外していたミアが説教されるなんて事を。
尚、数分後に帰って来たムルムルは普通に自己紹介……と言うか、生気が抜けていて正気を保っておらず、余程ルニィママの説教が堪えたのだろう。聞いてもいないのに、何故か自分の生い立ちまで悲しそうにミントに喋った。
ミントはそれを聞いて衝撃を受けて驚愕をし、ムルムルに同情した。尚、実際には本人は気にしておらず、怒られたショックでそのままのノリで話しただけである。
(凄く変な人だと思ったけど、そんな事があったなんて……。もしかしてあのおかしな言動は、ミア様とネモフィラ様の邪魔をするとかでは無くて、ただのやせ我慢だったのかも。本当は心に傷を負っていて、苦しんでるんだ。だからミア様が救ったんだよ! きっと他の二人も同じような境遇で、ミア様に……ううん。“王子さま”に救われたんですね!)
ミントの熱い眼差しがミアの目とかち合い、ミアが首を傾げる。しかし、ミントは満足気で、また一つ勘違いを増やしたのだった。




