衣装を買いに出かけよう
支払いが終わり奴隷少女たちとの隷属契約を交わすと、そこで問題が起きしてまった。
「“聖隷”……じゃと…………っ」
隷属契約で奴隷少女たちに刻まれた文字は“聖隷”。聖隷の“聖”は紛れも無く聖女を意味している。チコリーは左肩。クリアは右目。ムルムルは胸元。それぞれに“聖隷”という二文字が刻まれてしまう。しかも、それだけでは無い。
ミアがうさぎ好きだからか、“聖隷”の文字を囲うようにうさぎの顔を連想させる白金の色の模様まで出ている。クリアは目の中なので模様は分かり辛かったけど文字はハッキリとしているし、他の二人は一目でどちらも分かる状態だ。それを見てミアが驚愕し、奴隷商人や奴隷少女三人も驚愕のあまりに言葉を失った。
それからは大変だ。ヒルグラッセとメイクーとルーサが三人同時に動き、奴隷商人を押さえ付けて首に剣の切っ先を突き付け睨む。秘密を知った奴隷商人を今にも殺してしまいそうな勢いで、それをミアとネモフィラが慌てて止めた。すると、奴隷商人が助けられた事で感謝をし、まるでマッチポンプ状態に陥る。
奴隷商人は感謝するだけでは終わらなかった。自ら他言無用と言い出して、口約束では無く書類の上での契約を提案して交わした。そして、もし契約を破れば、奴隷商人だけでなく一族を処刑すると言う事で話がまとまった。
因みにミアは「そこまでしなくても良いのじゃ」と言ったけど、奴隷商人は「流石は聖女様です」と感激し、喜んでその契約を結んだ。と言うわけで、奴隷商人との問題は解決したけれど、まだ問題は残っている。
奴隷少女たちに刻まれた“聖隷”なんて文字を誰かに見られたら、間違いなく主であるミアが“聖女”だとバレる。これを上手く隠す為にも、それ用の衣装が必要だ。だから、奴隷少女たちの体を清めさせると、直ぐに衣装を買いに出かけた。
「チコリーは遠距離からグラッセさんを援護する弓を使う騎士に、他の二人は侍女として育てたいのじゃ」
そんなミアの意見を元に、それぞれの衣装が決定する。
まずは護衛騎士に任命されたチコリーだが、話を聞くと父親と買い手への復讐を果たした時に弓を使ったとの事で、だからミアが護衛騎士にと考えたようだ。彼女は左肩に聖隷の二文字とうさぎの模様があるので、もちろんそれを隠す為に袖の長いものを選んだが、それは左だけ。弓を構える時に右手で矢を掴むので動きやすいようにと、本人の希望もあって右肩を出した衣装で決定した。
しかし、いっそ右も長袖で良いのでは? と思い確認すると、いつも生地の薄い服を着ていたし袖の長い服を着た事が無いらしく、なんだか気持ち悪いからと言う理由だった。言われてみると牢に入れられていた時も肩を出していて、だからこそ左肩に文字と模様が浮かび上がった時に直ぐ分かったのだ。
尚、弓を使う騎士と言う事で、胸当てや籠手などの軽鎧も身に着けさせた。
「クリアは眼帯を付けるのじゃ」
クリアの右目には聖隷の二文字と模様がある。だから、眼帯を付けてそれを隠す事になった。衣装自体はメイド服で、子供用の物を購入して着せた。ただ、チェラズスフロウレスに帰ったら新しく新調する予定なので、これはあくまでも帰るまでの処置である。とは言え、せっかく買った物だしクリアがそれを気にいっていたので、私服として使っていいと許可を出したら喜んでいた。
「ムルムルは服で胸元が見えないし、普通にメイド服で問題が無さそうじゃのう」
「私だけ何も無しなんてご主人様は酷いです」
そう言ったムルムルは言葉とは裏腹に何故か少し嬉しそうだった。流石はどM少女と言ったところだろうか? まあ、それは置いとくとして、ムルムルは胸元に聖隷の二文字と模様を持つ。だから、メイド服を着るので問題が無いのだ。
因みに購入したメイド服はクリアと一緒で普段着にする予定だそうだ。それでいつでもどこでも奴隷としていられると、何故か嬉しそうに話していた。
「では、遅くなりましたが、今後ミアお嬢様に仕える身としての決まり事を教えます」
衣装選びを終えると、ルニィが新人三人を連れて場所を変える。ヒルグラッセとブラキは周囲に話を聞かれないようについて行き、ミアの侍従はクリマーテだけが残った。クリマーテが残ったのは、ミアの身辺の世話をする者を一人は残す為である。
「それにしても、奴隷を買うと聞いた時はとても驚いたけれど、やっぱりミアはミアだと安心したわ」
「はい。わたくしも最初は驚きましたけど、ミアはやっぱりミアでした」
「うむ……?」
アネモネとネモフィラがニコニコと笑みを浮かべて話し、ミアが首を傾げる。と言うのも、隷属契約を交わしてから服選びをしていた今までの間、ミアは奴隷に対してとても優しく接していたからだ。そしてその接し方は奴隷相手とは思えない程で、まるで友人を相手にしているようだった。
そんなミアの姿を見て、ネモフィラもアネモネも自然と笑顔になったのだ。それは侍従たちも同じで、最初は聖女として信じられないと考えていたけど、今ではその考えも無くなっていた。
(言っている意味は分からぬが、きっと奴隷を買うなんて聖女では無いと感じたに違いないのじゃ。実はこれもワシの計画の内だったのじゃが、上手く成功したようじゃのう。我ながら自分の頭の良さが恐ろしいのじゃ)
などと考えているミアだが、印象が良くなっただけに終わったとは夢にも思わないだろう。こうしてミアの計画の一部は不発に終わり、少し時間が経つとルニィがミアについて色々と説明を終え、三人を連れて戻って来た。




