幕間 公爵息女に下された罰
「え? す、すみません。ちょっと聞き間違いをした気がするので、もう一回言ってもらって良いですか……?」
「では、もう一度話そう。今回の件は不問とする」
「…………え?」
私はカナ=H=クレスト。公爵家の息女で、魔人の国で先日起きた戦争で全く役に立たなかった馬鹿だ。ウルイ陛下に謁見の許可を貰った私は、メイドに身なりをバッチリ整えて貰って、こうして謁見をしていた。
謁見の目的は、勿論モーナと私の勘違いで皆を巻き込んでしまった事への謝罪。騎士団の団長等を巻き込んだだけでなく、聖女の侍女、最後にはネモフィラ殿下まで酷い目に合わせてしまった。謝って済む問題じゃないのは分かってるし、どんな罰も受け入れるつもりだった。だけど、せめて家族だけは巻き込まないように、それだけはお願いしようと考えていた。
でも、私に下ったのは“今後は父や母に相談し、子供だけの判断で行動に移さない事”という、ただの忠告の様なもの。罰せられる事無く話が終わってしまった。それどころか、私は心配されてしまう。
「ところで左の頬が随分と腫れていて痛々しいが大丈夫か?」
「へ? あ。はい。今回の私の行動で母が怒って、ここに来る前に思いっきりビンタされただけなのでお気にしないで下さい」
「そうか。後で医者に診る様に私から伝えておく」
「え!? 医者って、そんな、そこまでしなくて大丈夫です」
ここに来る直前に私は母親に叱られて、頬っぺたを思いっきり叩かれたんだけど、そんなに腫れてたのか。どうりでさっきから痛いわけだ。
でも、だからってそれでそこまで迷惑をかけるわけにはいかない。私は丁重にお断りするけど、ウルイ陛下は私を心配して、結局医者を呼ばれてしまった。おかげで謁見が終わったら診てもらう事になる。
そんな事もあって余計に罪悪感が沸いた私は、何か出来ないかと考えた。でも、何も思いつかなかったから聞く事にする。
「陛下。私は今回の一件で深く反省をしていて、何かお役に立てる事がしたいです。どうか私に命令をして、罪を償う機会を与えて下さい」
「……気持ちは分かった。しかし、カナはまだ九歳の子供だ。反省しているのであれば、私はこれ以上必要無いと思っている」
「それじゃ駄目なんです。子供と言えど、犯した罪は償うべきです」
「言っている事は正しいのだがな……」
私は変な事は言ってない。と思う。でも、ウルイ陛下は少し困った様な表情を見せた。正直子供相手だからって甘すぎだと思う。ウルイ陛下って子供に甘い王様で有名なんだけど、自分の子供だけでなく他所の子にまでこれなんだから、これは筋金入りだよね。
「では、王として命じよう。カナ=H=クレスト。ネモフィラの派閥への加入を命ずる。それと同時に、今後はネモフィラの侍女として働くのだ」
「え? ま、待って下さい。ネモフィラ殿下の派閥に入るのも構いませんし、侍女になれと言われればなります。でも、それは罰にはなりません。人によっては羨まれる行為です」
「確かにカナの言う通りかもしれない。しかし、これはカナが想像している以上に重大な事なのだ」
「重大……ですか…………?」
「ネモフィラ……あの子はどうも思うままに行動する傾向がある様なのだ。侍従になればそれに振り回される事になる。フラウロスとヘルスターの一件が何よりの証拠であろう。あの子から目を離さず、事件の中心になる事を事前に防ぐ。それが今後あの子の侍従として成さねばならない重大な任務だ」
「……は、はあ。分かりま……こほん。謹んでお受けします」
「うむ」
重大な事って何なんだろう? と思っていたら、ようはネモフィラ王女が自由奔放すぎて侍女になると大変だよって話だ。そんなのモーナで慣れてるし、私にとっては日常茶飯事だ。だから、正直に言って拍子抜けした。と言うか、今回の戦争の件で信用が無くなったと思ったんだけど、そうじゃないみたい。
でも、大事な娘の側に戦犯の一人の私を置くなんて、ウルイ陛下は何を考えているんだろう? きっと私には分からない何か深い考えがあるんだと思うけど、正直逆に心配になる。まあ、でも、私には受け入れるしかないんだ。だから、「寛大なご配慮に感謝します」と頭を下げると、ウルイ陛下が「話は変わるが」とまさかの話の切り替え。
「モーナスは今何処に行っているのだ? 彼女にはネモフィラの近衛騎士を頼めないか聞きたかったのだが……」
「え? ああ。モーナですか? 今回の件が天翼会の会長にバレて、謹慎処分を暫らくの間は受ける事になりました。だから、今は学園で謹慎中です」
「き、謹慎…………」
質問に答えると、ウルイ陛下が凄い困惑した表情を見せた。まあ、そうなるよね。私も最初に知った時は驚いてそうなったもん。
「な、何故彼女が学園で謹慎を……?」
あ。そっちだったか。ってかヤバ。そう言えば裏会員の話は内緒だった。ん~。なんて誤魔化そう……。




