旅行を満喫しよう
魔人の国ディアボルスパラダイス。聖戦を終えたミアたちはチェラズスフロウレスに直ぐには帰らず、この国でバカンスを満喫する事にした。クリマーテもミアの侍女としての仕事が再開出来て、とても嬉しそうに充実した日々を過ごしている。そして、今ミアたち一行が来ているのは、ディアボルスパラダイスの首都だ。首都の街並みは西洋風な街並みで、RPGの世界のような雰囲気のものだった。道を歩く人々は魔人が多く、大人しいモンスターも建物の屋根の上や木の根元等でのんびりと過ごしていた。
「とても綺麗な所ですね。カナや侍王様たちも来ればよろしかったですのに……」
「仕方が無いのじゃ。カナさんとモーナスさんは今回の事で直ぐにチェラズスフロウレスに帰って、国王に直接報告する必要があったのじゃ。それにテンシュさん達も忙しいのじゃ」
「そうよ。ネモフィラ。本当は貴女やミアも帰って来いってお父様が言っていたのを、ミアがせっかく来たから観光したいって言ってくれたおかげで、こうして時間が取れたのよ」
ミアに続いてそう話したのはアネモネだ。アネモネは聖戦が終わってからは後処理を手伝い、その後はゴーラと龍神には先に帰ってもらって、自分は久々にミアとお話がしたいと残ってついて来た。ゴーラはこれに反対せずに、是非楽しんできてほしいと優しい笑みを浮かべて了承した。帰る時は通信機を使って連絡を入れたら迎えに来ると言っていたので、本当に話の分かる旦那である。
「それはそうと、ワシは目的のものを買いに行くのじゃ」
「目的のもの……? ミアは何かを買う予定だったのですか?」
「うむ。その為にここに観光に来たのじゃ。魔人の国にしか売っておらんからのう」
「そうだったのですね」
「魔人の国であれば大きな町に行けばどこでも売ってるらしいのじゃが、やはり王都が一番選び放題の筈なのじゃ」
「そうなのですか?」
「うむ」
「魔人の国にしか売ってない……? あの、ミア……。まさか、ミアが購入しようとしているのは……」
ミアの話を聞いて何かを察したらしく、アネモネが冷や汗を流して言葉を詰まらせる。でも、ネモフィラは全く思い当たるものが無く、首を傾げてミアを見た。すると、そんなネモフィラと目を合わせ、ミアは笑顔で答えた。
「奴隷を買いに行くのじゃ」
「――っ!? ど、奴隷ですか!?」
おい。こら。聖女。って感じで、聖女なのに奴隷をご所望とは何事だ! と誰もが思うだろうが、このアホ……じゃなくてミアは本気だ。ネモフィラが驚いたが、今まで黙って話を聞いていた侍従たちも驚いた。ミアの言葉は本当に聖女としても人としても最低で、しかし、魔人の国では奴隷の売買が禁止をされていない。奴隷市場も普通にあり、一般家庭にも基本一人は奴隷がいたりもする。だから、ミアもそう言う感覚で言っているのかと、複雑な感情を抱いた。しかしこのアホ……じゃなくてミア。そう言うのとは全く違う考えだった。
(将来引きこもる為に奴隷を買って、今からルニィさんに鍛えて貰って侍従として働いてもらうのじゃ)
そう。この聖女、将来引きこもる時に自分が楽する為に奴隷を買うのだ。
ミアの計画はこうだ。奴隷を買って、ミアが大人になるまでにルニィに鍛えてもらう。大人になったら聖女にはならずに独立して、自分は家の中でのんびり暮らしながら、奴隷に仕事や身辺の世話をしてもらう。そんな感じの何ともまあ聖女としてあるまじき堕落しきった計画だ。
(これぞまさに引きこもりスローライフなのじゃ!)
引きこもりと言うか最早ニートのそれだが、ミアにとっては引きこもりもニートも関係ないのだろう。そもそもミアはそこ等辺の考えは前世でも適当に考えていたので、あまり気にしていなかった。しかし、ミアに同伴するネモフィラやアネモネや侍従たちは心配になる。いったい奴隷なんて買って何をさせる気なのだと、気になって仕方が無かった。と言うか、前世の記憶があるブラキなんかはドン引きしているまであった。
「どんな奴隷がおるのか楽しみなのじゃ」
ミアが満面の笑顔で話すと、全員が顔を引きつらせる。こうして、ミアの“引きこもり計画”は変な方向へと進んで行くのであった。
第五章 終了
次回から幕間が四話ほど入って、第六章に入ります。




