謝罪と反省
ミアの号泣が治まると、アネモネとゴーラはネモフィラを助けに来てくれた侍王にお礼を言いに龍神に乗ってこの場を去る。そこでミアは気がついたのだけど、周囲の視線はアネモネに向けられていて、アネモネの後を追う人が何人もいた。そうして人がばらけて周囲からいなくなると、カナがモーナを連れてやって来て、勢いよく頭を下げた。
「本っ当にごめんなさい!」
「悪かったな」
「馬鹿。あんたもちゃんと謝れ」
「私は馬鹿じゃなくて最強だ」
「そう言うの今はいらないの! 反省しろ!」
カナがモーナの頭を押さえ付けて無理矢理に頭を下げさせ、その様子にミアは冷や汗を流した。
「ええと……確かクレスト公爵の娘さんのカナなのじゃ?」
「あ。うん。自己紹介が先だったね。私はカナ=H=クレスト。一応こいつの保護者」
「保護者なのじゃ……?」
「保護者は私の方だぞ」
「はいはい。それより、本当にごめんね。こんな事になっちゃったのって、元はと言えば私達のせいだったわけだし……」
「そう言えば、クリマさんから話を聞いたのじゃ。魔王が戦争を起こそうとしておると思って、それを止めようとしておったのじゃろう?」
「うん。でも、私とモーナの勘違いだったみだいだね。この事はちゃんとウルイ陛下に報告する。何とか罰が軽くなるように祈るしかないのが憂鬱だなぁ」
カナはそう言うと肩を落として、落ち込んだ様子でため息を吐き出した。しかし、そもそもの勘違いをしたモーナは全然悪びれた様子が無い。何故かカナの様子を見て鼻で笑い、他人事のように「考えすぎだろ」と言う始末である。そんなモーナにカナが「誰のせいだと思ってるのよ」と睨むが効果は無い。結局モーナは全然反省していなかった。
そんな二人の漫才のようなやり取りを見て、放置していたら終わらないと思ったミアは、話題を変える事にした。
「と、ところで、何故フィーラでは無くワシに謝罪しに来たのじゃ?」
「え? あ~……」
ミアの質問にカナが言い淀み、周囲を見回す。そして、近くに誰もいない事を確認すると、小声で言葉を続ける。
「勿論この後でネモフィラ殿下にも謝罪に行くよ。でも、貴女って“聖女”なんでしょ? だったら、一番最初に謝罪するべきじゃん」
「ワシは聖女では無いのじゃ」
「……え?」
訪れる沈黙。ミアのいつもの受け答えにカナが冷や汗を流し、モーナに視線を向ける。しかし、モーナもミアの事をよく知らないし、首を振るだけだ。でも、ミアが聖魔法を使ったのはカナも見ている。だから、基本はこの話題がNGなのかなと思い、カナは勝手に納得する事にした。
「あ。ねえねえ。ミアの頭の上で寝ているのって、ジャスミンさんの精霊のラテールさんだよね?」
「うむ」
「じゃあ、やっぱりあの話って本当だったんだ」
「あの話なのじゃ……?」
「あ~、うん。ネモフィラ殿下の近衛騎士はその実力を評価されて、天翼会から注目されている。って言われてて、中でもラテールさんが頭を寝床にするほど気に入られてる。って一部から言われてるんだよ。まあ、評価されているのは……って、これは言わない方がいんだよね」
カナが“評価されているのは”の後に“聖女だから”と言葉を続けようとして途中でやめると、ミアは「ふむ?」と首を傾げる。すると、スヤスヤと気持ちよさそうに眠るラテールにモーナがジト目を向け、その頭を指でつつく。
「こいつ最近いつも寝てるな」
「そうなのじゃ? ワシは寝てない所を見る方が多いのじゃ」
「たまたまだろ。完全に堕落しきってるんだ」
「あはは。まあ、ラテールさんは元々寝るのが趣味みたいな人らしいしね。基本何もしたくないっていつも言ってるし」
「こいつは堕落を極めてるからな」
「失礼……って言いたいけど、うん。今回ばかりはあんたの言う通りだよね」
「ほう。色々と話が合いそうじゃ」
(本気で今度ラテール先生に堕落の神髄を聞いてみるのも良いかもしれぬのじゃ)
などとミアが考えていると、カナが「そろそろ行こっか」とモーナに話す。モーナは「そうだな」と頷いて、二人はミアに視線を向けた。
「それじゃあ、私達は他の人にも謝罪に行くよ。クリマーテさんによろしく言っておいて」
「じゃあな」
「うむ。二人とも気を付けて帰るのじゃ」
ミアの言葉を聞くと、カナが駆け出して、モーナがその後を追う。そのまま姿が見えなくなるまで見送ろうとミアが見つめていると、途中でカナが立ち止まって振り向いた。
「言い忘れてたけど、今回の事のお詫びは絶対するから!」
カナは大声でそれだけ伝えると、ニコッと笑みを見せて「またねー!」と大きく手を振って、再び走り出した。




