聖戦(2)
魔人の国ディアボルスパラダイス出身のフラウロスはショタ好きである。が、それはつい最近からの事で、目覚めたのはアンスリウムに出会ってからだった。彼女はアンスリウムの魔装に魅入られ、いつの間にか心までも奪われていたのだ。それまではとても真面目で優しい女性で、だからこそこんな事をするなんてと魔王も驚いた。
しかし、それは偽りの姿だ。フラウロスは元々猫かぶりで、表では誰にでもいい顔をする。それは家族相手でも同じで、天翼学園でもそれは変わらない。勘付いたりする者も勿論いるが、それでも彼女の素顔を知る者は少なかった。だから、ここに集まったフラウロスの仲間も殆どが素顔を知らない。
彼女が涙を見せ、チェラズスフロウレスの王が五歳の少女に手を出して、実の息子であるアンスリウムを陥れたのだと嘘をついた。天翼会内部でも本当の事を知る自分を捕まえようと躍起になっていて、元凶であるチェラズスフロウレスの王を裁くしか道が無いと言って助けを求めた。
しかし、騙された彼等はミアの攻撃で倒れ、残ったのは偶然にも本性を知っている者のみ。フラウロスにとって、最早本性を隠す必要が無くなっていた。
「クソガキがよく言う! 王女を傷つけた罪だって? そんなものは私のアンスリウムにお前がした事と比べれば大した事では無いのよ! あの子の婚約者だったあの女のように、私が制裁を与えてあげるわ!」
「婚約者じゃと……?」
「そうよ! あの子が困っていたのよ! だから、あの子の無能な部下より先に、私があの子の婚約者を殺しに行ってあげたの!」
「――っ!」
ミアはアンスリウムが自分を婚約者にしようとしていた頃の事を思い出す。アンスリウムはミアと婚約する為に、婚約者との婚約を破棄していた。しかし、まさかそれにこの女……フラウロスが関わっているとは思わなかった。
「まさか、殺したわけではないじゃろうな?」
「殺してあげようとしたわよ。でも、あの女はお前と違って素直だった。顔をこの爪で引っ掻いてあげたら直ぐに自分の非を認めて、二度とアンスリウムに近づかないと約束したわ」
フラウロスはそう言って黒炎に包まれた爪を見せ、下卑た笑みを浮かべる。
「あれは滑稽だったわね。あの傷ではこの先一生貰い手が出来ないんじゃないかしら? アハハハハハ」
「…………」
当時を思い出して楽しそうに笑うフラウロスに、ミアはとてつもない不快感を感じた。この女には情け無用と考え、ミアはミミミピストルを構えた。するとその直後……いや、同時だった。ミアの背後に迫る二つの影。ミアは咄嗟に振り向き銃口を向け、引き金を引こうとしてやめ、その場から離れる。
直後にミアが立っていた場所に雷が落ち、更には謎の力で地面が割れた。
「な、なんじゃあ!?」
「――っ。躱されただと!?」
「アーマーズ! パラサイトのリンクが甘いんじゃないの!?」
突然背後に現れた二つの影の正体は、十四五六くらいの年齢に見える男と女。男は中世的な顔立ちをしていて、しかし、声変りが済んでいるようで声を聞けば男と分かる。女は綺麗な顔立ちをしていたけど、口の左側が裂けていた。その口の裂け方は、まるでコンクリートのヒビ割れのような裂け方をしていて、雑に縫われている。
「うるせえ! リンクは完璧だ。あの子供の動きが予想を超えてただけだ。お前だって躱されてんじゃねえか! ニーチュ!」
「それはアーマーズが捉えられなかったからでしょ! このグズ!」
「ほらほら二人とも、喧嘩はやめなさい」
「フラウ姉さん……遅くなってごめん。モノーケランドの軍の侍王と将軍に手こずった」
「いいのよ。ちゃんと殺してきた?」
「全っ然駄目! アーマーズのノロマのせいで離脱が精一杯。国のトップと二番が相手だったし、うち等じゃ分が悪かったわ!」
「そう。まあ仕方が無いわね。あの二人相手では、いくら貴方達でも役不足だもの」
(役不足の使い方が間違っているのじゃ!?)
どうでもいい。が、流石ミア。こんな時だと言うのに、そのどうでもいい事に驚いている。
「それよりフラウ姉さま。こいつがフラウ姉さまとアンスリウムくんの仲を引き裂いたミアって子供なの?」
「ええ。そうよ。このクソガキがミアよ」
「ブレゴンラスドで名を上げて調子に乗ってる生意気なガキがいるって聞いていたけど、こいつか」
「だったら、調子に乗ってるこの子に、うち等とフラウ姉さまで現実は甘くないって教えてあげなきゃね」
「全くだな。この歳で世間を甘く見て調子に乗ってるなんて反吐が出る」
「貴方達は本当にいい子ね。流石は私の可愛い義弟妹。頼りになるわ」
(一応前世を入れればワシの方が年上なんじゃが。それに、なんなら二人ともまだまだ子供にしか見えぬのじゃ。……いや。それよりも髪留めモードで――)
ミミミをピストルモードから髪留めモードに変えて、現れた二人の情報を調べようとしたけど、それを邪魔するように男の方がミアに攻撃を仕掛けた。その攻撃は先程ミアを襲った雷と同じで、男の手から放たれた。ミアは咄嗟にそれを避けたが、その雷はミアの想像を超えた動きを見せる。
「――っのじゃ!?」
「雷の速度をなめるなよ」
次の瞬間、雷がミアを追うように軌道を変え、ミアはその雷撃の直撃を受けてしまった。
「あはっ。うちの出番は無さそうじゃん」
「残念だったな偽りの聖女。俺の魔装【浸食する武装】は、雷すらも寄生して武器に変える事が出来る。お前の命運もここまでだ」




