聖戦(1)
フラウロスの能力と魔装はとても強力で、フラウロスは天翼会の中でも上位の実力の持ち主だった。
能力の名前は【先見の導火線】。寿命を削る事で、削った分の十分の一だけ未来を見る事が出来る力だ。この能力で一度に消費出来る寿命は最大で一分で、つまりは最大六秒先の未来が見える。
魔装は【超獣武装】。豹をモチーフとした装備を身に纏う、身体能力強化型の魔装だ。これを装備すると、秒速千キロ程の速度で動く事が出来る為、その速さは音速を上回る。それだけの速さを出せるからこそ、少し先の未来を見る事で有利に戦う事が出来るのだ。
だけど、フラウロスは普段から未来を見ているわけでは無い。理由は未来を見る代償として寿命を削らなければいけないから。だから、普段は能力を使わない。
しかし、この能力があるからこそ、フラウロスに賛同して約千人の協力者が現れた。彼等は未来を見るフラウロスがいれば、自分たちが負ける筈が無いと思っていた。とは言え、もし彼等が自分たちが敵に回したのが天翼会やチェラズスフロウレスだけでなく“聖女”だと知っていれば、きっとこんな馬鹿な真似はしなかっただろう。
「全員回避よ!」
全滅する少し先の未来を見たフラウロスが叫び、地面に向かって炎を出す。
いや。炎を出した所には、穴が開いていた。この穴はフレイムモールたちが移動に使っているトンネルで、フラウロスは炎を出す事でフレイムモールたちに穴から今直ぐ出るように合図を出して伝えたのだ。そしてその直後、フラウロスの軍は全滅を免れたが、多大な被害を被った。何が起きたのか? それは、ミアによる一斉射撃と、大量に湧き出る水柱。
まず始めに起こったのは、ミアの攻撃だ。フラウロスが叫んで一秒もしない間に、ミアは上空百メートル地点まで跳躍し、目にも留まらぬ速さで連続射撃したのだ。その速度は尋常では無い光の速さで、散弾銃を一度だけ撃ったようにしか見えないもの。ミアが放った白金に輝く光の弾丸は一瞬でフラウロスの仲間の額に命中し、一度に千人近くの意識を奪った。中にはフラウロスの叫びでミアの攻撃に気がついて回避出来たものもいたが、それは片手で数えれる程度の人数。殆どの者が何が起きたのかも分からなかった。そして、攻撃はまだ終わらない。
その三秒後に、フレイムモールが作り出したこの戦場に幾つもあるトンネルの全てから、もの凄い勢いの水柱が上がったのだ。その水柱の正体は、水の精霊プリュイの魔法だ。プリュイはモノーケランドの侍王テンシュと行動を共にし、この戦場に辿り着いていた。そして、フレイムモールが百匹近く現れると、穴に向かって水の魔法を使ったのだ。その結果フレイムモールたちは半数以上が魔法の餌食になり、水の柱に押し出されるようにして気絶した状態で飛び出した。
残ったフレイムモールたちはフラウロスの合図を見て逃げ出したものと、元々地上に出ていた数匹のみ。これにより、フラウロス軍は全滅とはいかなかったけど、ほぼ壊滅と言っていいであろう状況に追い込む事が出来た。
「ぬ? あの水の柱はプリュイ先生かのう? 流石なのじゃ」
ミアがそう言い乍ら着地すると、フラウロスがそれを狙ったかのように攻撃を仕掛けた。しかし、ミアも負けてはいない。フラウロスが黒炎を纏う爪を振るったと同時に、ミミミピストルでそれを受け止めて防ぐ。
「よくもよくもよくも! 本当にムカつくガキね! このクソガキがあ!」
(ぬう。流石に数秒先の未来が見えるだけあるのう。回避までは出来なかったのじゃ)
ミアがミミミピストルで攻撃を受け止めたのは、回避が出来なかったからだった。着地と同時に攻撃がきたので避けようとしたけど、その先を狙ったように爪が振るわれていて、しかもそれが一瞬の内に三回も起きていた。しかもこれが一瞬で起こった出来事なので、ミアは回避を早々に諦めて受け止めて防ぐ事にしたのだ。
そしてそれはフラウロスも同じだった。数秒先の未来を見乍ら攻撃の動きを変えているのに、何度も避けられる未来が見えた。だから、結局は攻撃を受け止められると言う結果に終わってしまう。フラウロスにとって気に入らない結果に終わり、ミアへの憎しみが更に増す。
「お前さえいなければ! 絶対に許さないわ!」
「許さないじゃと? それはこちらのセリフじゃ。フィーラを傷つけた罪は償ってもらうのじゃ」




