王女との再会
戦力を分散させた一番の理由は、光速で移動可能なミアにフラウロスの居場所を知らせる為。そしてそれは計画通りに予定が進む。二千里程離れた港町から一瞬で戦場にやって来たミアは、行動を共にしていたルーサとブラキとトンペットを檻の上に立たせて、自身は檻の中に入った。態々《わざわざ》自分から檻の中に入ったのは、ネモフィラの拘束を解く為だ。
ネモフィラは拘束を解かれると、ミアを思いきり抱きしめて涙を流す。
「ミア。わたくし……迷惑ばかりかけてしまってごめんなさい」
「そんな事は……」
そんな事は無いのじゃ。と返そうとしたけど言葉を呑み込んだ。今の状況は自分が結果的に甘やかしていたのが原因だと思ったからだ。例え本当に迷惑だなんて思っていなくても、ここで甘い言葉を言えば、また同じ事が起きてしまうかもしれない。だから、ミアはネモフィラの頭を優しく撫で乍らも、厳しい言葉を言わなければならないと感じた。
「フィーラ。トンペット先生から聞いたのじゃ。お主がワシの為にと、クリマさんを助けようとしてくれたのじゃろう? それはとても嬉しいのじゃ。でも、そんな危険な事をしたら駄目なのじゃ」
「……はい」
「侍王が己の国民までもを連れてお主を助けに来ておるじゃろう? それに侍王だけでは無いのじゃ。ここにはおらぬが、ブレゴンラスドでもお主を助ける為にと協力してくれておる者が沢山おるのじゃ。フィーラ。それはとても嬉しい事じゃが、同時にフィーラがしてしまった罪じゃ。お主の行動で、お主を助ける為に幾つかの命が断たれるかもしれぬのじゃ」
「わたくしのせいで……人が死ぬのですか……?」
フィーラの涙はピタリと止まり、体が震えだす。自分の行いが如何に軽率だったか。そしてその軽率な行動で、誰かが犠牲になって死ぬかもしれない。そう考えると、恐ろしくて堪らなかったのだ。
「ごめんなさい。わたくし……なんて事をしてしまったのでしょう」
「フィーラ。この戦いで何が起きても、今回の事を重く受け止め、自分の立場をしっかりと理解するのじゃ」
「はい。はい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
ネモフィラが再び涙を流し、ミアが優しく抱きしめて頭を撫でる。しかし、その直後。二人を邪魔するように、黒炎を纏った斬撃が檻ごと切り裂くように二人に迫った。ミアがネモフィラを抱きしめたまま檻の外に出て攻撃を避けると、その直後に檻が真っ二つになり黒炎の炎に包まれて、一瞬でドロドロに溶けてしまった。
「お前だけは許さないわよ! 元凶!」
そう言ってミアを睨みつけたのは、攻撃を仕掛けてきた女……フラウロスだ。
フラウロスは魔装を身に纏っていて、それは豹耳に豹尻尾で、首から下がタイツでヒョウ柄のトップスとパンツとグリーブの姿だ。爪が長く伸びていて、黒炎の炎を纏っていた。
ミアは直ぐにネモフィラを離して、フラウロスと向き合った。
「お主、その歳でその格好は無理があるのじゃ」
「――っな!? なんですってええええ!」
フラウロスが怒り狂い、先程と同じ黒炎の爪撃をミアに連続で飛ばす。しかし、ミアはそれ等を全て躱して、近くで戦いを始めていたブラキに視線を向けた。
「ラキ! すまぬがフィーラの事を頼むのじゃ!」
「え? あ! うん! 任せて!」
「いや。オレに任せろ。ちょっと王女に話がある」
「え? そうなの? どうしよう……?」
「護ってくれるならどっちでもいいのじゃ! よろしくなのじゃ!」
「んじゃ決まりだな!」
「あ! ボクも手伝うッス!」
ルーサがネモフィラを預かる事になり、ブラキがトンペットと一緒にそのサポートをする事になる。三人はネモフィラを護りながら移動を始めて、この場から離れていった。
その時、ミアは周囲を見て気がついたのだけど、いつの間にかサングラスを付けたフレイムモールが沢山湧いて出て来ていた。
(ぬぬ? 全然今まで気がつかなかったのじゃ。いつの間に出て来たのじゃ?)
ミアが少し驚いた顔で見ていると、その様子にフラウロスは何を勘違いしたのか笑みを浮かべた。
「あら? フレイムモールの数に驚いているの? アハハハハハハハ! この子達は全部私の可愛い下部! しかも、全員が魔装を所持しているわ!」
自慢気に話すフラウロスに、ミアはとくに思う事は無かった。しかし、フレイムモール全部が魔装を所持しているのが相当厄介なのは事実で、モノーケランド軍も苦戦を強いられていた。何より面倒なのが、フレイムモールは地中に潜って攻撃を回避し乍ら、こちらに攻撃を仕掛けてくる事。その戦法にやられてしまう侍も少なくはなく、かなりの数がフレイムモールの爪の餌食になっていた。それにフラウロス軍の天翼学園生徒や卒業生の実力もかなりのもの。そう簡単に押し勝てる敵では無いと、この戦いが楽では無いものだと一目で分かった。
「仕方が無いのう。フレイムモール以外は眠ってもらうのじゃ」
「は? 何を言って――――っ!?」
直後、フラウロスは能力によって数秒先の未来を見て驚愕した。その未来とは、自分も含め仲間全員が一斉に倒れて、全滅する未来だった。




