王女の戦い(2)
魔石もぐらの炭坑は魔石もぐらと呼ばれるモンスターが生息している炭坑と言うわけでは無い。ここは魔道具としてそのまま使える魔石が採掘できる場所で、フレイムモールと呼ばれるもぐらが生息している場所なのである。魔石の他にも石炭などもあり資源が豊富な場所で、炭坑に生息しているフレイムモールの骨が炭として利用できるのだ。しかし、昔は出入口付近に集落を作って人で賑わっていたが、今ではその影も無い。理由は単純なもので、需要が減ったから。だから、再び需要が高まれば人が増えるだろう。
さて、そんな魔石もぐらの炭坑だが、ここに生息するフレイムモールはモンスターでは珍しくとても温厚な生物で、ペットとして飼う者も少なくはない。だけど、フレイムモールはモンスターだ。炎を体に纏って突進攻撃が可能で、赤子の頃から猛獣として飼育すれば、とても危険なモンスターに成長してしまう。だから、ペットにするにも国の許可が必要である。
そんなフレイムモールが生息しているこの魔石もぐらの炭坑で、ネモフィラは計画通りモーナと二人でフラウロスの目の前までやって来た。と言っても、ネモフィラのドレスの中にはトンペットが隠れているのだけど。
「随分と来るのが遅かったわね」
「ふん。お前が私を牢屋から出すように手配しなかったからだ」
「仕方が無いでしょう? こっちにも準備があるし、その間は邪魔でしかないもの」
モーナが睨み、フラウロスが妖美に笑む。ネモフィラは緊張した面持ちで周囲を確認した。
休憩所として利用されていたであろう少し広めの空間で、椅子や机もあり、隅の方には檻があった。そしてその檻の中にクリマーテとカナが口や体を縛られて入っていて、二人と目がかち合う。クリマーテはとても悲愴的な表情でネモフィラを見ていて、涙を流していた。逆に、カナはモーナを怒ったような表情で睨めつけていて、何かを叫ぼうとしているけど猿轡を噛まされているせいで出来ないでいる。
「げ。滅茶苦茶怒ってるぞ」
「そのようですね……」
怒るカナにモーナが少し引いて、そして、フラウロスに指をさした。
「あんなに怒るって事はお前が何かしたんだろ! ただで済むと思うなよ!」
「はあ? 貴女が王女を連れて来たから怒ってるだけでしょう? 人のせいにしないでほしいわね」
「それだってお前が言い出した事だろ!」
「それを聞き入れたのは貴女じゃない。馬鹿な女」
フラウロスが見下すような視線を向けて笑みを浮かべて、モーナが眉尻を上げて睨み見る。しかし、無駄なお喋りはここまでだ。フラウロスは直ぐに底冷えするよう目を向ける。
「王女と二人を交換よ。分かってるわね?」
「当然だ。その為に来たからな」
「当然? それなら、王女は何故そんなにも自由に動ける状態なの? 縄で縛っている様にも、魔法で拘束している様にも見えないけど?」
「そ、それは……必要無いからだ!」
モーナは演技派ではないのだろう。明らかに焦った表情を見せ、逆ギレするかの如く怒声を上げた。それを受けたフラウロスは全てを見通し、笑みを浮かべる。
「もぐらちゃん。二人をここに連れて来て頂戴」
モーナから視線を逸らさずフラウロスが告げると、全身が真っ赤な毛に覆われたもぐらが一匹現れた。このもぐらこそがフレイムモールで、体長一メートルはあるだろう大きな体。そしてそれは異様な大きさだった。フレイムモールの体長は本来であれば三十センチ前後で、ここまで大きな個体はあり得ないのだ。だから、それを知っていたネモフィラとモーナは驚いた。そして、二人が驚いている間に、クリマーテとカナが檻に入ったままフラウロスの側に連れて来られた。
「可愛いでしょう? 私のお気に入りの子なの」
そう言ってフラウロスはフレイムモールを「いい子ね」と撫で、フレイムモールはとても満足気な顔を見せ、その後直ぐにモーナを睨んだ。
「マモン。最後のチャンスよ。王女を拘束して、こちらに投げてくれる? そうしたら二人を返してあげるわ」




