手掛かり
「ごめん。ミア。うちの馬鹿のせいでこんな事になるなんて」
「リリィ先生が謝る必要は無いのじゃ。フィーラの意思でいなくなったのかもしれぬしのう」
ヒルグラッセと一緒にネモフィラ探索に繰り出したミアは、妖狐山の神社の前でリリィと合流して現状を確認した。ただ、やはり未だにネモフィラもモーナも見つからず、全く手掛かり無しの状態だった。そしてそれは他の者たちも同じだ。メイクーは焦るあまりに空回りしている感じだったし、時間だけが過ぎていく。しかし、そんな中、ミアを起こしに来なかったルニィが一つの情報を掴んで戻って来た。
「猫耳の少女と貴族服を着た少女が、二人だけで山を下りて行くのを目撃した方がいました。恐らく……いえ。間違いなくネモフィラ殿下とモーナス様の事だと考えられます」
「それは本当なのじゃ!?」
「はい」
どうやらルニィはこの目撃情報を聞き、詳しく調べる為に走り回っていたから、ミアを起こしに来れなかったようだ。ルニィは説明の前にミアを起こしに行かなかった事を謝罪したけど、そんな事はどうでも良い事。寧ろミアは感謝して、詳しい話を聞いた。
妖狐山では山を登り下りする用の馬がレンタル出来て、山道の途中に馬小屋が幾つかある。ルニィが走り回って仕入れた情報によると、二人は山を下りて途中にある馬小屋に立ち寄ると、そこで馬を借りて山を下りていったようだった。ルニィは念の為にと自らも馬を借りて、幾つもある馬小屋を一つ一つ回って行った。そうして山の麓まで辿り着くと、そこの馬小屋でネモフィラとモーナスが馬を返して、何処かに走り去って行ってしまったのだと聞いたようだ。
「ぬう。となると、ワシの魔法で捜そうとしても見つけるのが至難の業になるのう。どこに向かったかも分からぬし、流石に広範囲すぎて簡単では無いのじゃ。方角は分かるのじゃ?」
「申し訳ございません。私も何処に向かって行ったのか確認したのですが、馬小屋の店主に知らないと告げられました」
こうなってしまうと流石にミアもお手上げに近かった。人を捜すのに長けているサーチライトは、捜す範囲を広げれば広げる程に大変で、湯けむりの町スモークドロップやブレゴンラスドの王都よりも遥かに広範囲になってしまう。使えば妖狐山で騒ぎになってしまうのは間違いないし、かと言って見つかる保証も無い。それに、聞いた話だと無事なのは確かだ。
ネモフィラとモーナは二人でしっかりと自分の意思を持って行動している。それなのに自分が焦って魔法を使い騒ぎの素を作り出すなんて、とてもじゃないがそんな事は出来なかった。
ミアは一先ず冷静に考え、真剣な面持ちで頷いた。
「以前、フィーラはワシの派閥だとかで、通信機を使っておった事があったのじゃ。メイクー。それは今もあるのじゃ?」
「それは……」
メイクーは言い淀んだ。だけど、今は緊急事態だ。この際だから“聖戦”の事もミアには一緒に告げた方が良いのかもしれない。そう考え、洗いざらい話そうと決める。しかし、そんな時だ。
「地震……?」
不意に聞こえた誰かの声。それは知らない人の声で、神社に集まる観光客たちの内の一人の声だった。しかし、その声が聞こえた直後に地面が大きく揺れて、騒めきが起こる。
ミアは近くに倒れてきそうな危険なものが無いかを確認した。ミアは前世で地震大国と呼ばれる日本に住んでいて、何度も地震を経験している。だからこその行動だったが、逆に言えばこの地震はそれ程に大きく、そして長い地震だった。その長さは尋常では無く、全く収まる気配が無い。次第に神社の瓦が剥がれて、その下にいた観光客の頭上に落ち始めた。
「ミミミ、戦闘モードに移行じゃ」
ミアは直ぐにミミミを出してピストルに変え、腕輪についた魔石の魔力を使って風の弾丸を発砲する。そして、地面が揺れている為に狙いずらいので、ホーミングの力を使う事で見事に全ての瓦を粉々に砕いた。すると、それを合図にするかのように、地震が漸く治まった。
しかし、安心してはいられない。建物は地震で何ヶ所かが崩壊し、周囲からは助けを呼ぶ声や叫び声が聞こえてくる。更には、それを打ち消すような、とんでもない音量の咆哮が聞こえたのだ。
「今の声はなんじゃあ!?」
驚いて声を上げたミアが慌てた様子で周囲を見る。するとその直後に、巨大な雲かと思う程に真っ白で大きな塊……いや。大きな狐が夜空を覆い尽くすように頭上に現れた。人々は悲鳴を上げて逃げ出し大混乱となり、その振動で崩れかけていた建物が崩れて、更に事態は収拾がつかない程の騒ぎになった。そして、その大きな狐の額の上には、見覚えのある男が立っていた。
「おお! そこにいるのはミアではありませんか! こんなにも早く会えるなんて、神であらせられるアンスリウム様が私を導いてくれたに違いありません! ミア! 貴女をここで殺して差し上げましょう!」
「ヘルスター……どうやら目撃情報は本当だったようじゃのう」




