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TS転生のじゃロリじじい聖女の引きこもり計画  作者: こんぐま
第五章 聖女と歩む異世界旅行
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人騒がせな事件のお話

 これはリリィの口から語られた、ミアが妖園霊国の首都“妖霊の都カピタースペクター”を馬車で出発した頃の話の一部である。

 魔人の国ディアボルスパラダイスの魔王城謁見の間に、天翼会所属のリリィ=アイビーの姿があった。彼女は天翼会の制服を着ていて、毅然きぜんとした態度で営業スマイルを浮かべている。対する魔王は少し困ったような表情を見せていて、その直ぐ側にはきさきが驚いた顔をして口元を手で隠していた。


「はあ? 私達がチェラズスフロウレスに戦争を仕掛けようとしている? んなわけないじゃん。初めて聞いたわ」

「まあ、そうでしょうね。セレネが私達の担当する国に戦争を仕掛けるとは思わなかったもの」


 リリィが当然とでも言うように話し、魔王に視線を向ける。すると、魔王が顔を真っ青にさせて、セレネと呼ばれた自分の后に視線を向けた。


「私も知らんぞ。セレネでは無いのか?」

「そんなわけないじゃん。私はリリィとジャスミンと古くからの友人って知ってんでしょ? なんで二人が担当してる国に喧嘩売んなきゃなんないの?」

「そ、それもそうか……」


 セレネが質問に答えると、魔王が肩を落とした。

 さて、このセレネと言う名の王妃様だが、実はリリィやジャスミンと顔見知り……いや。古くからの付き合いがあり友人である。名はセレネ=イサージア。赤みの入った金髪の髪に、長いまつ毛のつり目でワインレッドの瞳を持つ。耳は尖り、口には牙が生えている。とても美しい女性で年齢は二十歳に見えるが、実はかなりのご高齢だ。そして、彼女は日本で言う吸血鬼と呼ばれる種族の悪魔であり、長寿の魔族。そして、見た目は二十歳だけど雰囲気は大人びた女性と言うより、女子高生がドレスを着ている。と言うイメージだ。

 尚、魔王は三十代前半に見える見た目の小太りのおっさん。それ以上でもそれ以下でもない。イケメンでも無ければ武力などに長けている雰囲気でも無い。魔王と呼ばれているとは到底思えない程に驚くほど普通で、とてもじゃないが他国に戦争を仕掛けるような暴虐さも感じられない容姿だ。


「しかし、何故その様な話が……」


 魔王が呟いて唸る。本当に思い当たる節が無いのか、その考える素振りを見てリリィが呆れた。すると、セレネが魔王に向かって「アレじゃない?」と告げて、魔王は“アレ”と聞いて頭を抱えた。


「あら? 戦争を仕掛けようとした事でも思い出したのかしら?」

「そんな事しないって言ってんでしょーが。ってか、それって戦争じゃなくて天翼学園で開かれるトレジャートーナメントの話だし」

「……は? ちょっと待って。じゃあ、あの馬鹿の勘違いだったって事?」

「そう言う事なんじゃない? ねえ?」

「ああ。そうとしか考えられない。学園で起きた脱衣事件で娘が被害にあった時に、確かに私は頭に血が上ってチェラズスフロウレスに鉄槌てっついを与えてやるのだと考えていたし、それらしい事も喋っていた……」

「人騒がせな話ね」


 リリィが呆れてため息を吐きだし、セレネが肩を落として落胆する。


「もしかして、フラウロスが私達を騙しているのって……」

「本当の事よ。だから言ってるでしょう? あの馬鹿がここに来たのは話し合いをする為で、魔王の暗殺じゃないって」

「信じたくないけど、こうなると信じるしかないよねえ。でも、なんか納得。チェラズスフロウレスでは優秀な子供がいるって噂が広まってるでしょう? だから、そう言う子達を仕向けて、油断させて暗殺の道具として利用してるってフラウロスから聞いたのよ」

「馬鹿ねえ。優秀なのはミア……第三王女ネモフィラの近衛騎士と呼ばれている子だけよ」

「やっぱそうかあ。騙されたわあ。おかしいと思ったんだよねえ」

「おかしいと思ったなら疑いなさいよ」

「ま、待ってくれ! フラウロスはとても心の優しい義姉だ。私達を騙すような事をするとは思えない!」

「これだから男は」

「美人相手には直ぐ騙されるのよねえ」


 リリィとセレネが魔王をさげすむような視線を送り、魔王が眉尻を下げて縮こまる。なんとも情けない魔王である。


「ごめんね。リリィ。さっきも話した通り、この国を救う為に必要な事だからって言われて、二人だけ連れて行かれたのよ。だから、解放できるのはモーナスだけよ」

「仕方が無いわ。過ぎてしまった事を言っても意味が無いもの。馬鹿だけ回収するわ」

「ほんっとにごめん。お詫びに情報を一つ提供してあげる」

「何かしら?」

「実は、ヘルスターの居場所の情報はあるの」

「あら。是非教えてほしいわね」


 リリィが食いつくと、セレネはニコリと笑みを見せ、魔王を睨む。魔王は睨まれると肩を落としてため息を吐きだし、ゆっくりと説明を始めた。


「義姉上から聞いた話によると、妖狐山にヘルスターが何かをしに向かったらしい。それが上手くいけば、全部上手くいく筈だと言っていた」

「何か……ね。何をしに行ったのかは分からないの?」

「ああ。何処で情報が漏れるかも分からないから、まだ詳しくは話せないと言っていた。しかし、成功すれば自分が被せられた濡れ衣が解かれて、いずれ神に選ばれた者が我がディアボルスパラダイスに舞い降りると……」

「は? 神に選ばれた者? 何よそれ?」

「分からん。しかし、私はそれが過去に世界を救った“聖女”様だと思ったのだ」

「聖女様ねえ……」

「ま、でも、それも嘘だったって事でしょ? あの女。旦那の側室の姉だから一応信じてあげたけど、もう二度と信じないわ」

「それが賢明ね。とにかく情報はありがたく頂くわ。ありがとう」


 リリィはお礼を言うとモーナを迎えに行き、ついでに間違った情報で周囲を巻き込んだ事を叱ったのだった。

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