侍女の旅路(4)
「クリマーテさん! クリマーテさん!」
「……ん。……あれ?」
「はあ。目が覚めて良かったです」
「ここ……は…………っ!?」
クリマーテは既視感を覚え乍ら目を覚まし、寝ぼけ眼で周囲を見て、直後に目を見張る。何故なら、クリマーテが目を覚ましたそこは牢屋の中だったから。牢屋の中には他にもカナとモーナが入っていて、全員が囚人服を着せられていた。
「え? な、何が起きたんですか!?」
驚きながら尋ねると、カナが眉尻を下げてモーナに視線を向け、モーナが首を横に振った。その様子にクリマーテが首を傾げると、カナが「覚えてないんですね」と呟いてから言葉を続ける。
「モーナがフラウロスと戦ったのは覚えてますか?」
「……あ。思い出しました。あの時、私は直ぐにヘルスターに狙われて気絶したんです」
「ああ。そうか。なら知らないのか」
カナは納得した様子で呟くと、モーナを睨んで「ちゃんと護りなさいよ」と訴え、モーナが目を逸らす。そんな二人を見乍ら、クリマーテはあの時の事を思い出した。
天翼会の密輸犯フラウロスと囚人ヘルスターが目の前に現れて、直ぐに戦闘になった。モーナとフラウロスの戦いは互角で、しかし、妙だった。力の差だけで言えば、モーナの方が強いとクリマーテは感じた。だけど、何故かフラウロスがモーナの行動の先を読んでいるように見えたのだ。そして、二人の戦いに気を取られていたクリマーテは、ヘルスターに狙われて攻撃を受けて気を失った。
何ともまあマヌケな自分に、クリマーテは思い出して直ぐに反省した。のだけど、反省を遮るようにカナが話の続きを始める。
「その後直ぐに屋敷がディアボルスパラダイス軍に包囲されて、私等三人だけが捕まったんですよ」
「え? 私達だけ……?」
それは奇妙な話だった。状況的に考えれば、捕まるのは間違いなくフラウロスやヘルスターだ。何故なら、二人はモーナの家に不法侵入をしていたのだから。それに、ヘルスターは罪人だ。それに何よりも、自分たちだけが捕まる要素が思い浮かばない。
ディアボルスパラダイスがチェラズスフロウレスに戦争を仕掛けようとしている話は聞いているけど、それならあの二人も同じように捕まるのが道理だ。何故なら、二人ともチェラズスフロウレスの元王子アンスリウムの信者なのだから。少なくとも久しぶりに見たヘルスターや、それに加担していたフラウロスは、クリマーテの目にはそう映った。
「メグナット公爵とボーツジェマルヤッガー公爵を見かけてないので、二人は多分無事に逃げたと思うんですけど……」
「そ、そうですか。それは良かったです」
「良くないぞ」
「で、でも、お二人が無事なら助けを呼んで……って、それよりも、何で私達は捕まったんですか?」
「フラウロスにハメられたんですよ」
「ハメられた……?」
「まさか天翼会が極秘にしている筈の魔装の密輸の話が、この国にも漏れてるなんて予想外だったなあ」
「どういう事ですか?」
クリマーテが困惑すると、モーナがここにはいないフラウロスを思い浮かべて目を吊り上げ、怒声を帯びた声でクリマーテの問いに答えた。
「魔装の密輸犯の真犯人が私達で、魔人の国を脅かそうとしているチェラズスフロウレスの刺客だ。って、フラウロスが嘘の密告をしてたんだ!」
「えええええっ!?」
まさかの真犯人説。あの事件の犯人が自分たちにされ、しかもディアボルスパラダイスに潜り込んだ刺客扱い。予想外の言葉にクリマーテが驚くと、カナが「そりゃ驚きますよね」と肩を落として呟いた。カナも罪状を言い渡された当時は驚いていて、冤罪だと訴えても話を全く聞いてくれなかったと、クリマーテに説明した。
「あれ? ちょっと待って下さい。と言う事は、ここって……魔王城の牢獄ですか?」
「そうです。ここからの脱出方法を考えなきゃですね」
「そ、そんな……」
戦争を止める為にカナに誘われて魔人の国に来たクリマーテは、とんでもなく最悪な形で目的地である魔王城へと到着してしまった。




