万能薬を生み出そう
「ふと思ったんだけど、ミアちゃんって全然聖女っぽくないですね」
「当たり前なのじゃ」
マイコメール村にモノーケランドの将軍がいると話を聞き、ミアたち一行は村を出る時間を遅らせる事にした。でも、礼儀は大事だからと、ネモフィラが挨拶に出かけて行った後の事だった。この場に残ったのはミアとヒルグラッセとブラキの三人だけ。他の者はネモフィラの護衛だ。ルニィも同行したのは、将軍の顔を覚える為である。尚、ヒルグラッセは扉の向こう側で待機していて、部屋の中はミアとブラキの二人だけである。
「聖女って、銃を撃って戦うとかそういうのじゃなくて、ポーションを作って人助けしたり……とにかく、聖なる力で人に幸福をもたらす人だと思ってました」
「ふむ。つまり……ワシはやっぱり聖女ではないと証明されたのじゃ」
「そういう事が言いたいわけじゃないんですけど。やっぱり現実はラノベやゲームみたいな物語のお話とは違うんですね。少し残念です」
「現実は厳しいのじゃ」
うんうんと頷くミア。そもそもお前のせいだろ。と言う感じだが、まあ、アホなので仕方が無い。
「あ。そうだ。ポーションだよ。ポーション。ミアちゃんって魔法でポーションは作れないんですか? 難病に効く万能薬みたいなのです」
「そう言うのは作った事が無いのう。でも、なんでじゃ?」
「もし作れるなら、これから都の伝染病を治すのに使えるかもしれないじゃないですか」
「ふむ……」
「ミアちゃんは聖女だって思われたくないんですよね? だったら、ポーションを作った後に、チェラズスフロウレスの代表としてネモフィラ様の名前を使ってばら撒けば良いと思うんです。チェラズスフロウレスで発見した素材、例えば花を使って出来た秘薬とでも言えば、制作方法を隠す事も出来ますし」
「おおおお! お主、頭が良いのう! それじゃ! それなのじゃ!」
ブラキの提案はミアにとって素晴らしいものだった。その方法であればミアが全く目立たず、しかも、印象が悪くなっているチェラズスフロウレスの印象回復にも繋がる。更には、チェラズスフロウレスの王女ネモフィラなら、国の代表として申し分が無く誰もが話を信じるだろう。
まさに名案。そう言う事であればとミアは直ぐに扉を開けて、ヒルグラッセに話しかける。
「グラッセさん! フィーラ達を今直ぐに追って、将軍に会う前に連れ戻してほしいのじゃ!」
「承知しました」
本当に出来た護衛騎士を持ってミアは幸せ者だろう。話を聞いていないので事情を知らないのに、ヒルグラッセは理由を聞かずに返事をすると直ぐに走って呼び戻しに行ってくれた。ミアは見送ると、そのまま直ぐにポーション作りに取り掛かる。
「み、ミアちゃん? 作れるかどうかまだ分からないのに、呼び戻しちゃって良かったの……?」
「ワシを誰だと思っておるのじゃ? 本気を出したワシの力を見せてやるのじゃ」
何やら怪しげな笑みを見せ、聖女がしてはいけない邪悪な顔になるミア。しかし、それもその筈。このポーションさえ完成すれば、将来の“引きこもり計画”の為の資金を稼げると考えたからだ。いつの間にか目的が変わってしまっているが、おかげで更なる本気をミアに与えたのは言うまでもない。そんなミアをブラキは冷や汗を流して見守った。
ティーカップに薬草と水を入れて、ミミミを髪留めモードから魔法補助モードの動物の姿に変身させる。続いて聖なる白金の光を放ち、薬草が水の中に溶けるようにして消えていく。すると、苦戦をする事も無く、あっという間に薬草の色を吸収した万能薬が完成した。
「え!? なにこれヤバ。ミアちゃんヤバ!」
「ふっふっふっ。これがミミミの力じゃ。ミミミが凄いのじゃ」
驚きすぎて語彙力を失ったブラキと、得意気にドヤ顔してミミミを褒めて頭を撫でるミア。二人は大いに喜び合――
「み、ミア……」
「「――っ!?」」
――不意に聞こえたネモフィラの声。ミアとブラキはビクリと体を震わせて驚き、そして、声のした方へと視線を向ける。するとそこには、ネモフィラたちが早くも戻って来ていて、ヒルグラッセが真っ青な顔して立っていた。扉を開けた音もノックも無い。何故なら、ヒルグラッセが走り去った後に、ミアは扉を閉めずにそのまま薬を作り出してしまったから。そして、それはミアにとって最悪の結果を招いた。何故なら、ネモフィラの隣には三十代前半くらいの見知らぬ男が立っていたのだ。
ミアと男の目がかち合い、直ぐにミアが恐る恐るとヒルグラッセに視線を移して目をかち合わせた。すると、ヒルグラッセが頭を下げ、それと同時に男がヒルグラッセの前に出る。
「素晴らしい! まさか聖女様が本当に現れたとは! これで都が救われるぞ!」
「み、見られたのじゃあああああああっっ!?」
ミアは悲痛に叫び乍ら、ジェンティーレに言われた“貴女は当分自分の魔法を禁止なんだから”という言葉を今更思い出したのだった。




