革命軍残党を狩る者たち
枯草と枯木だけが生える荒野に、とんでもないスピードで走る二人と一匹。二人は元革命軍のルーサと騎士見習いのブラキ。一匹はリザードランと言う名のトカゲのモンスターで、その背には革命軍の残党の男が一人乗っていた。ルーサとブラキが勅命を受け、革命軍残党の男を追っているのだ。
男はリザードランに乗りながら枯木林の中へと入って行き、枯木の間をジグザグに走らせる。
「ちっ。そんなのでオレから逃げられると思うなよ!」
ルーサが枯草を踏みしめ、フリスビーの形をしたチャクラムの魔装を構えて放つ。魔装は水蒸気を周囲に撒き散らしながら飛翔して、リザードランを枯木ごと斬り裂いて男を転倒させる。そしてその直後に、水蒸気が所々に集束していき、それは幾つもの水の塊となった。
「オレのバレットウォーターは痛いじゃすまねえぜ!」
ルーサが勇ましい笑みを浮かべ、直後に水の塊が銃に籠められ撃たれた弾のように全てが男目掛けて一直線に飛翔した。しかし、男が直ぐに立ち上がり、土の魔法で地面から壁を生やしてそれ等を全て防ぎきってしまった。だけど、詰めが甘い。男は水の弾丸に気を取られてしまい、背後から近づいていたブラキに気が付いていなかったのだ。
「えい!」
ブラキの口から出た間の抜けた声と共に放たれたのは、その手に握られた剣の斬撃。斬撃は背中を切り裂いて、男は悲鳴を上げてその場に倒れた。
「殺ったかあ?」
「うわわああぁぁあ。この手に伝わる感触はいつになっても慣れないなあ……。と言うか、殺ってませんからね」
「つまんねえ男だな。オレが止めを刺してやるぜ」
「わああ! 待って待って! 出来れば生け捕りにしろって陛下に言われてるじゃないですか!」
「……ったく。面倒だなあ。おい! シスカアアア!」
本当に面倒そうに告げた後、大きな声で側近を呼ぶ。すると、少し遠く離れた場所から、ルーサの側近のシスカが駆け足でやって来た。
「こいつを縄で縛れ。背中の傷は止血だけして治さなくて良いぜ」
「かしこまりました」
「あ! わ、私がやります。女性にそんな事させられないし」
「いえ。結構です。これも私の仕事なので」
「でも……」
「やらせときゃいいんだよ。ブラキ、てめえのその女を贔屓する性格どうにかなんねえの? 女のオレ等と男のお前で上も下もねえだろ。見ててムカつくんだよなあ」
「え、ええええ!?」
「確かに、少し異常ですね」
「異常!? そんなに!?」
「はい。ルーサ様に惚れているようにも見えませんし、それとも私に……? 困りましたね。私は年下には興味無いのです。ごめんなさい」
「なんかフラれたみたいになってるし! 違います! そう言うのじゃないですから!」
「そうですか」
「まあ、どうでもいいだろ。他国に行きゃあ、ブラキみたいな連中がいっぱいいる国もあるしな。それよりもさっさと帰ろうぜ」
「そうですね。これが終われば、漸く私も代弁者様のいる領地で生活が許されていますし、今から楽しみです」
「お前は良いよなあ。オレなんて糞親父のせいで他国での騎士は禁止だぜ? いつか絶対にあの糞親父をぶっ殺してミアの許に行ってやる」
「物騒だなあ。それより、いつもの女の子らしい格好をするのを認めさせようよ。その男みたいな話し方もやめてさ」
「うるせえ。オレはミアの騎士になるって決めた時に女は捨てたんだ」
「とか言い乍ら、プライベートではヒラヒラの服を好んで着ていますよね」
「ち、ちっげえよ! あれは他に服が無いから着てるだけだ! 好きで着てるんじゃねえ!」
楽しそう? に会話し乍ら歩く三人。そして血を垂れ流しながら引きずられる男。なんともシュールな光景だが、これはルーサが革命軍の残党を討伐する任務を与えられてからの、この三人のいつもの光景である。
残党を殺さないにしても、これがかなりの拷問になり、だいたい王宮に辿り着く頃には自白する。そのせいか、三人は王から随分と信頼を得ていた。あの三人に任せれば間違いないと。でも、その任務も今回で終わりだ。今回の任務で最後の残党狩りが終了したので、ルーサは学園に復帰が許され、ブラキは騎士の仕事に戻り、シスカはルーサの側近から転職してアネモネのいる領地で再就職。三人は別々の道に行くのである。
「それでは私はこれで。……ルーサ様。今まで本当にありがとうございました。どうかお元気で」
「ああ。こっちこそありがとな」
「シスカさん。お世話になりました。短い間だったけど楽しかったです」
「はい。こちらこそお世話になりました。ルーサ様の事をよろしくお願い致します」
王宮に戻って残党の引き渡しを終わらせると、シスカと二人は直ぐに別れた。そして、シスカがいなくなって少し寂しさを感じ乍ら、ルーサとブラキは静かに歩いた。少しすれば、この二人もお別れだ。
どちらから声をかける事も無く、そして、別れ道に差し掛かる。二人は顔を見合わせて――
「おお! そこにいるのはルーサとブラキではないか! 久しぶりなのじゃあ!」
「――っ!?」
不意に聞こえたミアの声に驚くルーサとブラキ。そして、ミアとの再会がきっかけで、二人の進路は大きく変わる事になる。




