海底のお祭りと目的地の変更
「おおお! 昨日とは随分様変わりしておるのじゃ!」
「はい! 一夜でこんなに変わるものなのですね!」
ミアとネモフィラが目を輝かせて騒ぎ出す。しかし、それもその筈。昨日は特に何も無かった町の様子がすっかり変わっていて、町全体が装飾されて彩られ、更には草木が蒼く生い茂っているのだ。
大きな道に立ち並ぶ屋台の数々。海底の町と言うのもあり、海の幸を使った串焼きや、焼そばでは無く海鮮パスタ。他にも様々な食べ物も売られていて、ミアは目を輝かせた。
思い出すのは前世のお祭り。子供の頃や、大人になって結婚してからも子供や孫を連れて行った楽しかった思い出の数々を思い出す。と言っても、しみじみ思い出に浸かるわけでは無い。ミアは今を楽しむ派なのである。
だから、ミアは今ここにいる親友のネモフィラと一緒に、異世界ならではの屋台を楽しんでいく。魔道具を使ったダーツや、お鍋の中に入った猫を救いだす金魚すくいならぬ猫すくい。他にも様々なものがあった。尚、救った猫は持ち帰れるので、ママとパパに猫を飼って良いか相談してから遊びましょう。うさぎだけでなく可愛いもの全般が好きなミアはもちろん挑戦してすくったけど、ルニィに持ち帰りは駄目だと言われてションボリである。
路地裏を覗き込めば、一夜で祭りの準備をした職人たちが、お酒を飲んで「お疲れ」と乾杯して盛り上がっている。ミアはそんな職人たちに「朝までお疲れ様なのじゃ」と心の中で労った。
そうして町の様子を隅々まで見て回り、気が付けばお昼になっていた。
「そろそろ昼食の時間ですね」
「うむ。屋台でお昼ご飯を買うのじゃ」
「わあ。いいですね」
「ワシは宿屋の近くにあったフランクフルトが食べたいのじゃ。あそこが一番大きかったのじゃ」
「朝ご飯を食べたばかりだったのに、とてももの欲しそうな顔で見ていましたね」
「ワシってそんな顔してたのじゃ?」
「はい。ジッと見つめていて、とても可愛かったです」
「ぬう……」
ミアはマヌケ面な自分の顔を想像して複雑な気持ちになる。でも、気にしていても仕方が無い。直ぐに気持ちを切り替えて、フランクフルトを求め歩きだした。
「しかし、昼からはどうするかのう。ルニィさん。船は結局乗れそうにないのじゃろう?」
「はい。状況は変わらずでした。いっその事、他国に一度立ち寄り、そこからディアボルスパラダイスに向かうのが速いでしょう」
「ぬぬう。遠回りになれば、その分時間がかかるけど仕方が無いのじゃ。しかしそうなると、何処へ向かうのが一番の近道なのじゃ?」
「ブレゴンラスドに向かい、モノーケランドを経由して向かうのが一番ですね」
「ほう。そう聞くとあまり遠くは感じぬのう」
と、ミアは言っているけど、実際は滅茶苦茶遠い。このルートだと、立ち寄らなければならない国がブレゴンラスドを合わせて三つ。しかも、実は一番遠回りなものだった。その理由は、アンスリウムのせいで失った信用が大きく影響していて、近いルートの国は全部がチェラズスフロウレスの受け入れを拒否している為だ。本当に傍迷惑な話である。
「でも、それならまたドラゴンに乗れば早く到着するのではないですか?」
「それは良いご提案ですね。ネモフィラ様」
ネモフィラの提案にメイクーが喜び称賛するけど、ミアが少し気まずそうに視線を逸らし、その様子にネモフィラが首を傾げた。
「ミア?」
「目立ちたくないのじゃ」
「え……?」
「ワシは目立ちたくないのじゃ」
はい。いつものです。
「で、でも、ミミミちゃんに動物と話せる機能もついたのですし……」
「ぬぬう。しかし、ワシはブレゴンラスドで目立ち過ぎたのじゃ。これ以上は絶対に危険なのじゃ」
「ミア……。そうですね。ごめんなさい。ミアの気持ちをもっと考えるべきでした」
「おお。分かってくれるのじゃ? ありがとうなのじゃ」
ミアとネモフィラが手を取り合い、何故か目尻にちょっぴり涙を浮かべた。何やら二人で感動的な雰囲気になっているが、それを見守る侍従たちはなんとも言えない表情だ。
こうしてミアたちは遠回りして魔人の国に向かう事になり、フランクフルトを食べて昼食を済ますと、早速ブレゴンラスド行きの船に乗ろうとした。のだけど、このタイミングでまたもや事件が起きてしまう。
「出港が一時見合わせなのじゃ!? しかも、出港がいつになるか分からぬとはどう言う事なのじゃ!?」
「監視が祭りで手薄になって、その間に航路上にシャークスネークってモンスターの群れが現れちまったんだよ。シャークスネークは潜水船を丸ごと呑み込む事が出来る程の大きく凶悪なモンスターでな。とてもじゃねえが危険で航海なんて出来ねえのさ」
「なんじゃとお!?」




