幕間 勘違い少女は派閥に入る
チェラズスフロウレスで貿易の仕事を任されていて、それなりに大きなメグナット公爵家。それが私の生まれた家。父さまと母さまは優しくて大好きだし、母さまとは別の女の人の血が流れている兄さまも優しくて大好き。でも、兄さまが陛下を裏切った。
裏切って殺そうとして、父さまを傷つけて捕まえて、私の事も見捨てた。最初はそれを知って怒ったけど、時間が経てば経つほどに悲しくて落ち込んでしまう。父さまの行方は分からなくなってしまったし、そのせいで母さまも最近は元気が無い。
私の家は国をめちゃくちゃにしたアンスリウム派だから、風当たりも最近は悪くなった。本当は家族全員で責任を負う事になる筈だったけど、聖女様と同じ魔法が使える“王子さま”のミア様のおかげでそうはならなかった。
ミア様がこの件は連帯責任では無く本人だけの責任にするべきと言ってくれたおかげで、私と母さまは責任をとらなくて良くなった。だけど、私はなんだか心にぽっかりと穴が開いたみたいに感じてしまって、最近は何もやる気が起きない。
「ミント。あなた、ミアの派閥に入りたいのでしょう?」
「え……?」
ある日、私の家にサンビタリア様がいらして、そう告げた。確かに以前そんな事を話した事があった気がするけど、私は驚いて答えられなかった。すると、サンビタリア様は屈んで私と目線をあわせて下さり、とても綺麗で美しい微笑みをなさいました。
「あなたさえ良ければなんだけど、今から集会があるから、あなたを連れていってあげても良いわよ。どうする?」
「い、行きたい……です!」
「そう。なら決まりね」
サンビタリア様が私の頭を撫でて立ち上がりました。落ち込んでいた筈なのに、それが嬉しくて元気がでました。それから、集会が開かれる会場に向かう途中で、ミア様の派閥での暗黙のルールを教えて下さりました。
一つ、ミア様を“聖女様”と呼ばない事。
一つ、ミア様が“聖魔法”を使える事を話さない事。
一つ、ミア様の正体を絶対に話さない事。
この三つは絶対に守らなければいけないと言われた。確かに、ミア様は女装をしている殿方なので“聖女様”では無いし、その正体が他国の“王子さま”だなんて口が裂けても言えません。聖魔法が使える事も誰かに知られてしまえば、きっと大騒ぎになってしまいます。それに、サンビタリア様はこうも言いました。
「今はまだミアの正体を知っている人だけが集まっているけど、いつか知らない人も入るかもしれないでしょう? だから、その時の為に普段からそれ等は話さないようにしておくのよ」
仰る通りだと思った。私も最近は母さまにミア様の事をついうっかり喋りそうになってしまう事がある。だから、もし普段からその話をしていたら、気付かずに喋ってしまうかもしれない。そう思うと、普段から話さない方がきっといい。だから、私はサンビタリア様に絶対話さないと誓った。
「ここよ」
「え……? ここって……喫茶店……?」
「そう。喫茶店よ。今はアンスリウムのせいで城がバタバタしてて場所が無いから、ここで集会する事になったのよ」
「…………」
辿り着いたのは、アニマル喫茶と言う動物たちと触れ合える人気の喫茶店だった。お店の中に入ると、ネモフィラ様とメイクー様とジェンティーレ先生とツェーデン様がお待ちしていました。それから、ブレゴンラスドで通信する為に使った魔道具があって、その画面にはアネモネ様のお顔が映されています。
「全員揃いましたね。では、第三十二回目のミア様派会議を始めます」
私とサンビタリア様が座ると、メイクー様がそう仰って会議が始まった。それからはとても充実したひと時だった。まずは初めて参加する私の為に自己紹介をして、その後にミア様の活躍を皆さんが報告していく。中でもネモフィラ様のご報告は群を抜いて素晴らしくて、まるで恋愛小説を朗読して頂いている様に感じました。でも、楽しいひと時が終わる頃に、ジェンティーレ先生がとんでもない事を仰られたのです。
「ああ。そうそう。ジャスミン先生から情報が入ったわ。アンスリウムに加担していた先生が、魔人の国に逃げて行ったそうよ。そこにはミアの侍女もいるかもしれないし、ミアが行くかもしれないわよねえ。だから、同行を希望するなら早めの準備をした方が良いかもしれないよ」
この時、ネモフィラ様とメイクー様の目の色が変わったのを、私は見逃しませんでした。




