腹黒元王子の罪
アンスリウムの罪は大きく、そして、その罪状の数も多かった。アンスリウムに一度は殺されてしまったレドックは目を覚ますと、今までの事を全て話した。彼は友であり主だったアンスリウムに殺された事があまりにもショックで、精神を病んでしまっていた。だから、話を聞き出すのはとても簡単な事だった。
「辺境の地でネモフィラ様を襲った野盗を雇ったのは私です」
アンスリウムに命令され、出来るだけ名のある野盗を調べて雇ったとレドックは告げる。
ネモフィラの護衛の特徴を教え、成功率を上げる為に武具も提供した。万全の状態で作戦を実行させたけど、それが失敗に終わったと聞き、当時は耳を疑ったようだ。
「魔装を売っていた商人はヘルスターです。学園で譲り受けた魔装を彼に渡して売らせていました」
チェラズスフロウレスで魔装を売っていた旅の商人。その正体がヘルスターであった事を告げた。
彼は二重スパイであり、本当はアンスリウムの派閥の者だった事も。目的は、聞いてしまえば単純な事。魔装所持者を作らせて、アンスリウムが自ら指揮をとって危険な連中だと言って捕まえる。そうする事で、何も知らない民からの信頼や支持を手に入れ、王太子になる為の後ろ盾を民から得る計画だった。だから、渡す相手は危険な思想を持つ相手だと決まっていたし、アンスリウムはそれが原因で人が死んでも構わないと思っていた。寧ろ、誰かが死ねば死ぬほど犯人を捕まえた時に、自分の評価が上がると考えていた。
「サンビタリア様を陥れる為に、ルッキリューナが暴走するように裏で手を回していました」
あの事件でルッキリューナがサンビタリアをも利用したのは、アンスリウムの計画の一つだった。
当時のサンビタリアは随分と荒れていて、それは学園でも分かる程になっていた。アンスリウムはその様子を見てサンビタリアの暴走を予見し、ルッキリューナに目を付けた。ルッキリューナはサンビタリア派の中で優秀な魔装所持者で、サンビタリアが利用しようと考えそうな性格をしている。だから、暴走するように手を回した。と言っても、それはルッキリューナだけでは無く他にも候補はいた。元々は目を付けていたのは、ルッキリューナだけでは無かったのだ。
あの事件でもしサンビタリアがルッキリューナを選ばなくても、変わりの誰かが暴走をしていただろう。その片鱗を見せていたのが、リベイアを苛めていたベネドガディグトルの娘ケレニーだ。彼女もサンビタリア派でありながら、アンスリウムの派閥の者に利用され、暴走しやすい思考へと変えられていた。
この思考を暴走しやすいものへと変える計画は、アンスリウムが王太子から外された頃から始まっていたものだ。だから、付け焼刃なんてものでは無く本当に長い時間を使っての計画なので、誰もそれに気付く事が出来なかった。目を付けられ成長と共に思考を誘導された者たちは、アンスリウムの思惑通りに動き、きっかけを与えてやれば暴走をする。これはアンスリウムが幼いころから進めていた計画の一部だったのだ。
「まさか、そんな幼い頃から……」
末恐ろしいその手口を聞いた時、ウルイは背筋が凍る思いをした。
最後に、レドックはブレゴンラスドでは王妃スピノと連絡を取り合っていた事を話し、話を終える。
「以上が、私が知っているアンスリウム様の計画の全てです」
ウルイはレドックの話を聞き、天井を仰いだ。愛する我が子が幼い頃から姉を陥れる為に動いていて、その矛先を妹に向けた。聞けば聞く程に信じられ無い事ばかりで、何とも言えない感情が生まれていた。そして、アンスリウムの言う通り、自分の無能さを痛感した。
国を治める事が出来ても、父としてアンスリウムを良き方向に導けなかった事を後悔した。しかし、今更どうにか出来る事でも無い。アンスリウムは庇いきれない程の罪を犯してしまったのだから。
「聖女様には、本当に感謝しなければならないな」
誰にも聞こえない声で呟き、ミアに心から感謝した。ミアがアンスリウムに下した罰は、国外追放だけ。おまけで変なものもついているが、処刑して命を絶つわけでは無い。本来であれば、処刑しなければならない程の罰を犯したのにだ。生きてさえいてくれるのであれば、ウルイにとってこれ程ありがたい事は無かった。と言っても、実際はそんなに甘くは無い。
アンスリウムは今後の人生で自由に行動出来ないように、足枷と首輪を付けたままの生活を強要されている。そして、それ等は監視機能付きの呪縛と呪殺の魔道具だ。もしアンスリウムが再び何か悪い事を企んだり逃亡したりすれば、まず足枷が呪いを発動して下半身の自由を奪って立つ事すら出来なくなり、最後には首輪から鋭利な刃物が飛び出して首を真っ二つにする。だから、アンスリウムは常に死と隣り合わせの生活をする事になっている。これはウルイの発案であり、アンスリウムの暴走で犠牲になった民たちにも伝えていて理解を得ていた。
(しかし、聞けば聞く程に罪状が増えるな。今でも十分重い刑を与えているが、それでも足りんか……)
ウルイは暗い表情を見せ、ため息を吐き出した。
「アンスリウムをここに連れて来てくれ」
扉の前に立つ騎士に伝え、アンスリウムを呼ぶ。そして、父と息子の最後の会話が始まった。決別と刑を加重する為に。




