驕りの王様(1)
ミアとトンペットの登場でアンスリウムが動揺を見せ、レドックが前に出て魔装を取り出し、ミアを鋭く睨みつけた。
「アンスリウム様。ここは私に任せてお逃げ下――――っ」
「さようならだ。レドック」
アンスリウムを逃がそうとしたレドックを、アンスリウムが背中から剣で突き刺した。レドックは目を見開き、アンスリウムに振り向きながらその場に倒れる。アンスリウムは倒れたレドックには目もくれず、剣を床に投げ捨て、慌てるような素振りをミアに見せた。
「ミア! 心配したんだぞ! 生きていて良かった!」
アンスリウムは持ち前の演技力で、あたかもそうだったかのように感じる言葉の羅列を並べて告げた。そして、まるで今まで本当に心配していたかのような表情を見せ、ミアに駆け寄った。
「俺はこの男に脅され利用されていたんだ! 君の事をどんなに心配していたか! ああ。本当に無事で良かった!」
「アンスリウム……様…………?」
ただ忠実なだけの配下であれば、受け入れられたかもしれない。しかし、レドックはアンスリウムと同じ十三歳のまだ子供で、アンスリウムの事を幼馴染の親友だと思っていた。受け入れられるはずが無い。信じていた親友に刺された事にショックを受け、捨てられた事に絶望しながら血反吐を吐き、レドックは意識を失い死亡した。その姿を見て、ミアは心の底からアンスリウムの演技に嫌悪を感じた。
「ミアがこうして生きて姿を現してくれて良かった! おかげでこの男、反逆者に隙が出来て討ち取る事が出来たよ!」
アンスリウムが自分は利用されただけで悪くないのだと弁明し、無罪を主張する。しかし、ミアは何も言わない。ミアに駆け寄って自分も被害者なのだと説明するアンスリウムには目もくれず、レドックの許へと歩き始める。アンスリウムは必死に弁明し、レドックに近づけば近づくほどに焦りを見せ、最後にはミアの前に立って足を止めさせた。
「ミア。俺の話を聞いてくれ! こいつは国家の反逆者だ! 生き返らせるつもりなら必要無い!」
「真相は本人に聞くから問題無いのじゃ。そこをどいてくれぬか? アンスリウム殿下」
「そうッスよ。聖女の邪魔するとか無礼な奴ッスね。身の程を弁えろッス」
「トンペット先生! これはこの国の問題です! 部外者は黙っていてくれませんか?」
「残念だったッスね。今のボクはのじゃロリの護衛ッス。だから部外者じゃないッスよ。いいからそこをどくッス」
「そう言う事じゃ。そこをどいておくれ。アンスリウム殿下」
「……っ」
悔しそうに顔を歪ませアンスリウムが道を開けて、ミアが再び歩き始める。側に辿り着くと、悲しい表情を見せ、レドックの頬にそっと触れた。
「可哀想に。アンスリウム殿下の事を護ろうとしたのにのう。裏切られると思っておらなんだのじゃろう」
レドックは絶望に顔を歪めて、そのままの表情で死んでいた。だから、ミアは可哀想だと感じたのだろう。そして、レドックに蘇生の魔法を使おうとした。しかし、その時だ。背後から本を捲る音が微かに聞こえて、直後、天井から雷が発生してミアの頭上に落ちる。でも、心配はいらない。
「ウインドカーテンッス」
トンペットが周囲を警戒していて、その雷がミアに直撃する前に魔法で防いだのだ。雷は風のカーテンでヒラリといなされ、近くの床に落ちるに終わった。
「なんのつもりッスか?」
「レドックを蘇生されてしまえば、どのみち俺は罪人として扱われるのだろう? なら、お前達をここで始末した方が良いと考えたのさ」
「うわ。開き直ったッス。切り替えだけは早いッスねぇ。腹黒王子が本性を表したッス」
「ふん。貴様等の自分勝手な正義からしてみれば、新たな時代を築く俺はさぞ悪に見えるだろうからな。それから一つ訂正しておく。俺は王子では無い。この国の王だ」
「そんなのどうでも良いッスよ」
トンペットとアンスリウムが睨み合い、その間にミアはレドックを今度こそ蘇生した。レドックの傷は塞がれて息を吹き返すが、直ぐには目覚めない。そのまま眠り、ミアが引きずって廊下の隅っこに寝かせた。
「あれ? 直ぐに目覚めないッスね」
「余程のショックを受けたのじゃろう。精神的なダメージが大きくて、恐らく暫らくは目覚めぬと思うのじゃ」
質問に答えて、ミアはアンスリウムに視線を向ける。アンスリウムの手には分厚い本の形をした魔装があり、右手はページを捲る準備がされていた。ミアは直ぐにミミミ髪留めモードの機能を使い、アンスリウムのその魔装の力を把握した。
「残念だよ。ミア。君は国王である俺を暗殺しようとした罪で殺さなくてはならなくなった」
「随分とお主に都合の良い理由を考えたものじゃのう。ちょっと感心するのじゃ」
「そうッスか? 所詮は子供の浅知恵ッスよ」
「まあ、そう言うでないのじゃ。それからトンペット先生。アンスリウム殿下が言っておった通り、これはこの国の問題なのじゃ。手出し無用でお願いしても良いかのう?」
「良いッスよ。それならボクは周囲を警戒して、誰にも邪魔されないようにしてあげるッス」
「ありがとうなのじゃ」
ミアの感謝の気持ちを受け取ると、トンペットはミアから離れた。アンスリウムはその様子にニヤリと笑みを浮かべて、ページを捲る。するとその直後に、アンスリウムの周囲に光り輝く光の剣が幾つも現れた。
「感謝するといい。聖女の名を汚す罪人ミア。その罪を今ここでこの俺が直々に裁いてやる。神の力を持つこの俺がな」




