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変わり果てた王都

 チェラズスフロウレスの海上騎士団の船十(せき)中の九隻が沈み、隊長モヒートとその仲間たちが残った一隻に集められる。更に、この唯一残った船で悪さが出来ないように、ブラキが残って監視する事になった。本人はビビっていたけど、モヒートすら彼には敵わないので問題無い。それに、ウルイやサンビタリアたちが乗って来たブレゴンラスドの強化船と一緒に行動するので、サンビタリアもブラキと共に監視役を務める事になっている。

 ミアたちは先を急ぐ事にして、既に野良ドラゴンに乗ってその場を去っていた。そして、アンスリウムとの対話を希望するウルイを、野良ドラゴンに一緒に乗せている。目指すはチェラズスフロウレスの王城。ミアは本当はクリマーテの事が気になっていたけど、自分の感情を抑えて城に向かう事にした。でも、それは見捨てたからではない。


「クリマーテ? あ、ああ。ラスミリィ子爵令嬢の事か。彼女ならブルーガーデン経由で城に送る事になっている。み、ミア様が生きていると言っていたから、その真偽をアンスリウム様に確認してもらおうと思って送ったのだ。あそこには信頼出来る私の友人がいたからな」


 拷問の果てにモヒートから聞き出したその言葉で、ミアは多少なりとも安心した。無事であるなら、城に戻って来るのであれば、今は優先しなくても大丈夫なのだと。だから、クリマーテを後回しにして、王城へと向かう決心をしたのだ。

 正直なところ、ミアがモヒートに何故あそこまでの拷問をしたのかを言えば、それはサンビタリアやウルイにした事だけでなくクリマーテの事もあったからだった。クリマーテが海上騎士団に捕らわれたと聞いていたから、怒っていてあのような拷問をした。

 結局は拷問相手がまさかミントの兄だとは思いもよらず、やりすぎてしまったようだが問題は無いだろう。むしろあの程度で済んだと言っても良いくらいだ。彼はそれだけの事をしでかしたのだから。とは言え、ミアは少し反省した。

 モヒートは正直どうでもいい。でも、ネモフィラが心配したように、家族を甚振いたぶられたミントの心情を思うと凄く申し訳ないのだ。だけど、そんなミアにミントは優しかった。兄を止めてくれてありがとうと感謝され、ミアは救われた気持ちになった。と言っても、ミントからすれば暴走した兄を止めてくれたわけだから、本当に感謝している。

 何だったら兄の顔を見たくない程に今は怒っていて、もっと痛い目を見れば良かったのにとも思っている程だ。ミントにとっては、自分を受け入れてくれて優しくしてくれている王族は家族同然に好きな相手だ。その王族が実の兄に傷つけられたのだ。しかも、自分まで見捨てられた。酷いショックを受けたし、嫌いにだってなる。だから、当然の結果だった。


「ミア。見て下さい。王都が見えてきました」


 野良ドラゴンの背に乗って海を渡り、ミアたちはあっという間にチェラズスフロウレスの王都に帰って来た。のだけど、何やら様子がおかしい。

 空から見た王都に暮らす民たちには活気が無く、暗い顔して下を向いて歩く者が多くいる。いつもであれば子供たちが駆け回る姿が見える広場にも子供の気配が全く無く、閑散かんさんとした雰囲気がただよっていた。出店が立ち並ぶ商店街通りも同じように閑散としていて、人通りも少なく、営業をしているお店も少なかった。よく見れば、道端のあちこちにゴミが散らばり、騎士たちが傍若無人ぼうじゃくぶじんな態度で歩いている。騎士とすれ違う民は怯えるように道の隅に寄り、出店では金を払わず食料を奪う姿も見えた。王都全体がスラム街になったかのように変わり荒れ果てていた。


「酷いな……」


 そう口にしたのはルーサだ。まさか王都がこんな酷いありさまになっているとは思わず、ウルイ等王族たちは声を出す事も出来なかった。


「腹黒王子は何がしたいんスかね~?」

「がお~」

「ちょっとお。トンペットちゃん。アンスリウム様が原因とは限らないじゃない。きっと何かあるのよ」

「何かってなんスか?」

「それは分からないけど……。アタシ、ちょっと確かめに行って来るわ」

「確かめにって――っあ」


 道を歩いていた少女に絡もうとしていた騎士に向かって、ケーラが野良ドラゴンから飛び降りる。因みに、今は地上から二百メートルほど上空にいるのだけど、まあ、気にしなくていいだろう。もの凄い地響きを鳴らせて、無事に着地しているのだから。おかげで周囲が騒めいて、騎士たちが敵襲かと集まって来ているけど、逆に良い陽動になっていた。だから、ミアたちはケーラを放っておいて、今の内に城へ行こうと先を急いだ。

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