表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/999

下衆な聖女

「はーはっはっはっはっ! 次はどいつだあ!? どんどん来やがれ雑魚ども!」

「やあねえ。サウルちゃんってば。あれじゃあ女の子らしくないどころか、野蛮な猛獣と変わらないじゃない」

「ひい! こっちに来ないで! いやあああああ!」


 元革命軍(もとい)家出少女ルーサがアンスリウム派の海上騎士団の船を一瞬で六(せき)ほど沈め、その姿に呆れながら元革命軍のケーラが船を二隻ほど沈める。そのかたわらで、見習い騎士ブラキが若干()を出しながらも、海の中にいる魚人とヒューマンのハーフの騎士を一掃していく。

 よわよわで戦いに負けてマイコメールに行く事になったりもした見習い騎士のブラキくんが、何故こんなにも強いのか? 答えは簡単。彼女な彼が弱いのはあくまでもブレゴンラスドの騎士としてであり、平和ボケした国で育ったチェラズスフロウレスの騎士に負けるはずが無いのである。同じ学園に通っていようが、育った環境が全く違う。水中戦であろうとそれは変わらず、ブレゴンラスド最弱の騎士であろうとチェラズスフロウレスの騎士より強くて当たり前。

 ブレゴンラスドはついこの間まで革命軍と内戦していた国だ。見習いだろうが何だろうが、くぐり抜けてきた修羅場がだんちである。そもそも、チェラズスフロウレスは個人の実力では強い者も中にはいる国だけど、総合的に見てザコザコなのだ。平和ボケしている国が強いわけがないし、実際に学園でも最弱争いをするくらいには総合力が弱い。この通り、実力の差は歴然だった。


「お、お兄様。そろそろ止めなくても良いのでしょうか……?」


 ドラゴンの背に乗って、戦いを眺めているネモフィラが冷や汗を流してランタナに尋ねると、ランタナは同じように冷や汗を流して苦笑する。


「止めると言っても、どうやって止めるつもりなの? 私達はこの通りドラゴンの背の上で、あの中に入るのは無理だろう?」

「そうですけど……」


 実際にランタナの言う通りで、正直どうしようもない。ランタナは重力の魔法を使えるけど、だからと言って単身であの中に飛び込む勇気なんて無かった。眼前に映る光景は戦争そのもので、まだ幼いランタナには恐ろしく見えるのだから。でも、それは他の者も一緒だ。

 ネモフィラだって怖いし、リベイアだって怖い。だから、リベイアが「ここはミア様に任せましょう」と苦笑交じりに告げる。無力な自分たちでは見守る事しか出来ないからと。すると、話を聞いていた手の平サイズな精霊たちが、三人の前にやって来た。


「仕方が無いッスね~。ボクとラーヴが止めて来てあげても良いッスよ」

「がお」

「本当ですか!? ありがとう存じます! では、ミアにミントのお兄様を痛めすぎると、ミントが可哀想だと伝えてあげて下さい」

「え? そっちッスか?」

「がお?」


 ネモフィラが心配していたのはミントだった。何故ならば……。


「ほれほれ。どうじゃ? 反省したのじゃ?」

「は、反省した。反省したからもう止め――っおぶぶぶぶぶぶぶぶ」


 はい。ミアはモヒートを拷問ごうもんしています。

 魚人とヒューマンであるモヒートは首元にえらがあり、水中では鰓で呼吸している。だから、そこを水に浸けさせず、顔だけを水の中に入れてしまえば呼吸が出来なくなるのだ。そしてミアが今やっている拷問は、モヒートを炎のくさりで拘束し、足を掴んで顔を海水の中に入れたり出したりすると言うもの。

 水責めと火炙ひあぶりに似た拷問を続けるその姿は、まさに外道。背中から生えている白金の翼が神々しいのが相まって逆に怖い。これで聖女なのホントおかしいくらいヤバい所業。最低を通り越して下衆げすだった。


「反省の色が足りぬのう。お主は王を死に追いやり、王女を殺そうとしたのじゃ。誠意を見せぬのであれば、より恐ろしい目に合わせてやるのじゃ」


 下卑た笑みを浮かべるミア。マジで聖女の笑顔どこ行った? な感じである。


「うわ。これは堕聖女ッス」

「がお~。ミア、ラテにちょっと似てる」


 拷問を続けるミアの許に精霊たちがやって来ると、ミアはモヒートの顔を海に沈め乍ら二人に視線を向けた。


「お主等もこ奴を拷問しに来たのじゃ?」

「違うッスよ。その逆ッス。と言うか、確かに子供に見せられないような拷問をするあたりがラテにそっくりッスね。それに聖女がしちゃダメな顔してるッス」

「がお」

「え? ワシってそんなに聖女っぽく無かったのじゃ?」

「何でそこで笑顔なんスか? めちゃくちゃ良い笑顔ッスね」

「ミア可愛い。がおー」

「照れるのじゃ」


 なんだか呑気に話しているけど、モヒートへの拷問は終わってません。すんごい涙と鼻水と海水でぐちゃぐちゃになった顔が、海の中にまだ入っます。


「ところで何しに来たのじゃ? ワシはこの愚か者を反省させて、ミントの兄の場所まで案内させるつもりなのじゃ」

「は? 何言ってるッス? そいつがミントって言う子のお兄さんッス」

「……のじゃ?」


 ミアが驚き、大量の汗を流し始めて動きを止める。


「こ奴が……ミントの兄なのじゃ…………?」

「そうッスね」

「がお」

「…………」


 ブクブクと泡立つ海水。モヒートの顔は海の中。ミアは真っ青な顔をして、海水の中のモヒートの顔を見た。


「のじゃああああああ!? それを早く言うのじゃあああああああああ!」


 ミアは大慌てでモヒートの顔を海水から上げる。そして、今にも死にそうなその顔を見て、動揺しまくってプルプルと震えた。

 はい。この男がミントの兄モヒートだと気がついていませんでした。とは言え、幸い? な事に、特に問題は無いだろう。何故なら、ミントは兄の言動や行動に失望してしまい、ちっとも心配していないのだから。ミントは兄に命を見捨てられていたのだし、兄の酷い醜態しゅうたいを目の前で見たのだ。いくら血の繋がった兄妹と言えど、当然と言えば当然の結果だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ