聖女は悪だくみを考える
「半日は言いすぎです。多分十五時間くらいです」
「アタシはご飯休憩とお昼寝を入れて一日かかると思うんだぞ」
「がお~。わたちはおやつ休憩もほちい」
「なんで自分ならみたいな話になるんスか? それ言い出したら、ご主人なら一時間どころか三十分あれば、チェラズスフロウレスを真っ平らな大地に出来るッスよ」
半日で国が亡ぶと聞いてミアたちが驚愕のあまりに言葉を失っている間にも、あーでもないこーでもないと精霊たちが呑気に話す。それはまるで可愛らしい精霊たちによる昼下がりの談笑。話の内容さえ聞いていなければ、とても微笑ましく癒される精霊たちの姿だ。でも、その話の内容はミアたちからすれば恐ろしいもの。
たったの半日で国を滅ぼすだけの力がある。それを聞かされて、アンスリウムの反逆を知られてはならないと、誰もが思った。と言うか、トンペットの“ご主人なら”の後に続いた言葉で目を見張り、全員がジャスミンに注目した。最早その後の会話は耳に入ってこない程に驚いている。
「あ、あはは……。トンちゃんってば、私がそんな事するわけないでしょ。失礼しちゃうなぁ」
「え? そこは否定しないのじゃ?」
「あ。え、ええっとぉ……。そのくらいならミアちゃんも出来――って、そうじゃなくて、私の事はいいの! ほ、ほら。みんな元気出して! 大丈夫! 誰にも言わないから! ね?」
(え? ワシも出来ちゃうのじゃ……?)
ミアは驚いたけど、直ぐに思い出す。自分が使っている魔装のミミミはジェンティーレに頼んで出力を抑えてもらっている事に。そう考えると、ジャスミンが言っている事はあながち間違っていないのかもしれない。しかし、おかげで余計に本来の力を出したくなくなったミアである。
自分の力にミアが恐怖してぶるりと身を震わせると、その直後にジャスミンが「あっ。そっか」と言い乍らポンッと手を叩いた。
「私、分かっちゃったかも」
「うむ……? 何が分かったのじゃ?」
「魔装を売る商人の事だよ! 今はまだ可能性の話だけど、でも、多分これが正解ならアンスリウムくんの件も大丈夫になるかもだよ!」
「なんじゃと? それは本当なのじゃ?」
「うん。魔装を横流しにした犯人が分かったかもしれないの。もし目星をつけた相手が犯人なら、アンスリウムくんと随分と仲が良い先生なんだよね。だから、アンスリウムくんを増長させた要因に繋がるかもしれないの。そしたら、天翼会側にも責任が出るでしょう? チェラズスフロウレスばかりを責める事が出来なくなるんだよ」
「なんじゃと!? 本当なのじゃ!? しかし、そんな事をしてお主は良いのじゃ? 同じ天翼会の一員なのじゃろう?」
「うん。気にしないで。仲間だからこそ、道を踏み外して間違いを犯したら、ちゃんと正してあげないとダメだもん」
「腹黒と仲良い……アイツですか。過激な奴の一人です。ラテ達はあの違反者をぶっ殺しに行くですね」
「殺しちゃダメなんだぞ。半殺しくらいで許してあげるんだぞ」
「そう言う事だから、みんなまたね」
ジャスミンは別れの挨拶を告げると、縛って動けなくしているスノウとブイドハンバルを魔法で宙に浮かせて、次の瞬間に姿を消す。それは本当に消えると言う表現そのもので、その場に光の粒子だけを残してパッと突然姿を消して、この場にはトンペットとラーヴだけが残った。
ジャスミンが姿を消すと全員が驚いたが、ミアだけは驚きはしなかった。何故なら、ミアには見えていたから。ジャスミンは光の魔法を使い、開いている窓から光速で出て行っただけ。同じく光速で動けるミアにはそれが分かり見えていて、だから、とくに驚く事もない。だけど、白金の光ではないけど、ジャスミンも光の魔法が使える事には少しだけ驚いた。
「ご主人は光の大精霊ウィルオウィスプ様とも契約してるから、聖魔法は無理でも光の魔法は使えるッス。と言うか、学園に通った事あるなら見た事くらいはあると思うッスよ」
「がお」
驚く皆に聞こえるように言ったトンペットの説明が、まさかの驚愕の事実で、この場が騒然としたのは言うまでもなかった。流石は天翼会の精霊使い。三十分あれば国を滅ぼせると言う言葉にも信憑性が増すと言うもの。そしてその事実が、ミアに悪だくみを考えさせる。
(閃いたのじゃ。大精霊とまで契約が出来て光魔法を使えるジャスミン先生が、ワシの代わりに聖女になれば良いではないか。いける! 絶対にいけるのじゃ! ジャスミン先生を生贄にして、これでワシは晴れて自由の身じゃ!)
いけません。と言うか、生贄とか言い方が酷い。そもそも聖女を何だと思っているんだって感じである。この聖女、本気で最低だった。




