侍女の行方
ジャスミンたちとの話も終わり、新たにTS転生者仲間のブラキと友達になったミアが空き家に戻ると、空き家の前でルニィとヒルグラッセが待っていた。
「お帰りなさいませ。ミアお嬢様」
「ただいまなのじゃ。何か変化はあったかのう?」
「たった今連絡が入り、陛下が港を出たそうです」
「ううむ……。思ったよりも早かったのう。港まではドラゴンに乗ったのじゃ?」
「その様です」
別行動をしているチェラズスフロウレスの国王ウルイや他の者は、ブレゴンラスドを出て船で帰国中。連絡と言うのは、ジャスミンが予め用意してくれた魔道具での連絡だった。これのおかげでウルイと連絡が可能になっていて、お互いの状況を知らせる事が出来るようになったのだ。
「それから、リベイア様が目を覚まされたので、皆様は今そちらにおられます」
「おお。それは良かったのじゃ」
そう言ってミアもリベイアの許に向かおうとして、ルニィもその後を歩こうとする。しかし、ヒルグラッセが「ルニィ」と名前を呼んで止めた。
「まだ他にも報告は残ってる」
「……そうね」
何やら言い辛そうな雰囲気の二人。ただならぬ何かを感じ、ミアは足を止めてジッと見つめると、緊張でごくりと唾を飲み込んだ。
「クリマーテがアンスリウム殿下の派閥に属した貴族に捕らわれている事が分かりました」
「――っなんじゃとおおお!? どういう事なのじゃ!?」
「ブイドハンバルの証言によれば、クリマーテは現在チェラズスフロウレスの海上騎士団に捕えられ、港町ブルーガーデンに連れていかれたと……」
「こうしてはおれんのじゃ! 今直ぐ――」
「お待ちください!」
「――っ。止めるでない。心配せずとも騎士団なぞ蹴散らしてやるのじゃ」
ミアにしては荒っぽい言動。クリマーテが危険な目に合っていた事に余程腹を立てたのか、その顔は珍しく怒りで眉尻を上げていた。でも、ルニィは怯まず、ミアを行かせまいと前に立つ。
「今は陛下に報告し、あちらに同行しているミント様に確認を取って頂いている状況です」
「ミント……? 何故そこでミントの名前が出るのじゃ?」
「海上騎士団の団長がミント様の腹違いの兄モヒート様だからです。父親と同じくアンスリウム殿下の派閥の者ですが、ミント様を溺愛しています。ですので、ミント様なら直接確認をする事が可能と思われたからです」
外交関係の仕事をしているメグナット公爵には、各国各地に数人の妻がいた。そして、その内の一人との間に生まれたのが、ミントと腹違いの兄モヒートだ。モヒートはまだ成人しているわけでなく、実は天翼学園の在校生だが、その類稀なる才能を買われて海上騎士団の団長を任されていた。
「それに、ミント様が連絡をとれば、良からぬ考えは持たない筈です」
「ぬぬう。……ミントを利用するようで気が引けるのじゃ。しかし、今はそれに頼るしかないのじゃな……」
ミアは肩を落とし、気が沈んだ。実際にあのまま飛び出して行っても、実は何処へ向かえばいいのかも分からなかった。と言うか、行った事が無いので、港町ブルーガーデンの場所をそもそも知らないのだ。ブレゴンラスドに来る時に通った港町はブルーガーデンでは無かったし、この異世界は何気に地球よりも滅茶苦茶広い。分からないまま飛び出しても、迷子になるのは確実だった。だから、今はミントに祈るしか出来ないのだ。
するとその時、部外者なのでと口を挟まずに聞いていたジャスミンが、ポンッと手を叩いた。
「思い出した。モヒートくんってあのモヒートくんだ」
「人と魚人のハーフだから、水上戦ではそれなりに強かった奴ッスね」
「ナルシストロリコン魚人野郎です」
「女の子にモテモテだったんだぞ」
「がお。アメちゃんくれた人。わたちは好き」
「ラーヴはチョロいッスからね~」
「何度か誘拐されそうになっていたです」
「あれは別に誘拐じゃないと思うんだぞ」
「がお?」
「あはは。とにかくだよ。ミアちゃん。念の為に、モヒートくんの攻略方法を教えてあげちゃうよ」
「攻略方法なのじゃ……?」




