聖女の能力(2)
能力【魂引流帰】とは、死亡した者の魂を引き寄せる力である。そしてそれは蘇生魔法と相性が良く、ミアは無意識でこの能力を使っていた。つまり、死んだ者の魂を能力で呼び戻し、魔法で甦らせていたのだ。
スノウがばら撒いた病で亡くなったマイコメールの民は、この能力のおかげで助かっていた。ミアが使う蘇生魔法の条件は、寿命以外で死んだ者が対象と言う条件と、死後一時間以内の者だけが対象と言う条件がある。しかし、復活させた村人の中には、死後一時間以上を経過している者もいた。この死後一時間以内と言う理由が、魂が肉体から離れてしまうからと言う理由だった。だから、この能力のおかげで全ての犠牲者を助け出す事が出来たのである。
ジャスミンはそれを知っていて、ミアが知らない事を知った。だから、ジャスミンはその能力の名前と効力を説明した。しかし、ミアは説明を受けても信じられなかった。何故なら、能力は能力取得装置で手に入れる力であり、そんな物を使った覚えがないからだ。
今でこそ貴族の公爵の爵位を持っているけど、元々は平民の家に生まれた田舎村のただの村娘。能力取得装置は購入するのに金貨十枚は必要で、それは日本で言う所の千万円相当。そんな大金を出してそんな物を買う余裕なんてミアの家には無い。だから、間違いなくミアとは無縁の魔道具だった。それなのに、自分には能力があると言われても、そんな筈無いとしか思えない。だけどこの時、ミアはふと、ある事を思い出した。
「魔族は始めから能力を持っておると、何かの本で見た気がするのじゃ」
「あ~、うん。昔はそうだったみたいだね。今は違うみたいだけど」
「今は違うのじゃ?」
「うん。魔族と他種族で争いが起きていた時代の一番大変だった時だよ。その戦いが終わった後に、能力を持って生まれる魔族がいなくなっていったの」
「なるほどなのじゃ」
「って、お話が逸れちゃったね」
ジャスミンはそう言って苦笑すると、コホンと可愛らしく咳払いする。そして、真剣な面持ちをミアに向けて、ミアはその様子に緊張してしまう。
「今回の事件で改めて分かったよ。ミアちゃんの力は凄いし、大勢の人を助ける事が出来る。でもね、とても危険なの。その力を知った悪い人が、ミアちゃんの事を利用しようと考えるかもしれない。だから、天翼会で保護しようと思うの」
「ぬ、ぬうう。ワシは出来れば静かに暮らしたいのじゃ。天翼会に行くとそれが叶わぬのであろう? それは嫌なのじゃ」
「うーん。学園長権限を使えばどうにか出来ると思うけど……」
「学園長権限……なのじゃ? そう言えば、試用入園で学園長を見なんだのう」
「ちょっと複雑な事情で人前に出れない人なんだよねぇ。天翼会に入っていても会えないくらいだもん。でも、私なら会えるから紹介してあげられるよ」
「ぬう。少し考える時間がほしいのじゃ」
「うん。もちろんだよ。急な話だもんね」
ジャスミンがニコッと笑顔で答えたので、ミアは少し安心した。ミアとしては、本当に静かに暮らせるならそれでもいい。でも、チェラズスフロウレスでネモフィラたちと出会って、とても楽しくて居心地の良い毎日をおくっている。それを手放す気には中々なれなかった。だけど、ジャスミンの言う通り、自分を利用しようと考える者が現れないとも言えない。実際にアンスリウムとの婚約問題があったし、あれこそ利用の一つだった。と言っても、そのアンスリウムは王に反旗を翻したので、婚約がどうのの段階は疾うに無くなっているが。
それに、ジャスミンは信用出来ると見れば分かるけど、天翼会は信用出来ない。天翼会が介入しているからこの世界で戦争が起きない。だけど、それは力で押さえ付けると言うもの。それの善し悪しは人それぞれ考え方が異なるだろうけど、少なくともミアはそれが嫌だった。
何故なら、より強い力が現れてしまえば、簡単に崩壊してしまう平和だから。そしてその可能性を秘めている魔装と言う兵器を、天翼会自体がばら撒いている。そんな集団の中に入って、本当に大丈夫なのかと考えても仕方が無い事ではあった。
「あ。そうだ。もう一つ言い忘れてたよぉ」
「もう一つ……? 今度はなんじゃ?」
「ミアちゃんにはもう一つ能力があってね。【神々の助言】って言うんだけど、これはミアちゃんが聖魔法を使える理由にも繋がっているの」
「なんじゃとおおお!? ってええええ、なんじゃその物騒な名の能力は!」
ミアが驚いて大声を上げると、その声があまりにも大きいのでジャスミンが耳を防いだ。




