聖女とバレない為の工夫
準備する時間がほしいと言ったミアはその場から姿を消した。しかも、見習い騎士のブラキを連れて。
ミアがいなくなると、ネモフィラはメイクーに謝った。内緒でミアについて行った事で心配をかけたからだ。でも、結局それはメイクーにはお見通しで、優しく「今度からはきちっと相談して下さい」と言われただけで終わり、ネモフィラはそれを約束した。
それからミアは数分後に戻って来ると、何故かブラキが着ていた軽鎧を装着していた。のだけど、身長差があるせいで何やら可笑しな事になっている。そして、何処で手に入れたのか仮面を被っていて、顔が見えなくなっていた。ブラキはミアの畳まれている服を手に持っていて、薄着姿で恥ずかしそうにしていた。すると、それを見兼ねたルニィがブラキに服を準備して渡して、ブラキはミアの服と交換して着替えに行った。
「ミア……とても良くお似合いですけど、何故鎧を借りたのですか?」
「身バレを防ぐ為なのじゃ」
そう言ったミアの顔はドヤ顔だったけど、仮面で隠れて見えない。
「変装するのであれば私がお貸ししたのに!」
何やらメイクーが悔しそうにしているが、ブラキは八歳でそれなりに五歳児のミアと年齢も近く、だから選ばれて鎧を借りている。大人のメイクーの鎧ではブカブカどころでは無いので、どちらにしても無理があった。メイクーはそこ等辺を分かっていないのか本気で悔しそうだ。
「ブラキが脱いでおる間に村をぐるっと回って来たのじゃ」
「おお。流石ミアちゃん。仕事が早いね」
「光速で動けるのは便利で良いッスよね~」
「動くより寝る方が好きです」
「アタシは動いてるほうが好きだぞ」
「がお。かけっこ楽しい」
精霊たちも合流していて、ワイワイ楽しそうにお喋りする。何とも緊張感の無い雰囲気だけど、それでも一人だけ余裕の無い者もいる。それはランタナだ。ランタナだけは表情に余裕が無く、焦る気持ちを抑えていた。
「ミア。リベイアや村の人達は助けられるの?」
「心配せんでも良えのじゃ。少し厄介な病だけど大丈夫なのじゃ」
「そうか。良かった……」
「ねえ、ミアちゃん。村の中を見て来たんだよね? 死んだ人とかいた?」
「うむ。じゃが、心配する必要は無いのじゃ。運良く全員時間内だったからのう。だから、ついでに甦らせて来た所じゃ」
「おお。流石だよぉ。やっぱりミアちゃんは優秀だねぇ……え? 時間内?」
褒められたミアは照れてニヨついたが、仮面で隠れて見えない。とは言え、真剣な面持ちのランタナの目の前でそんな顔は見せられないので、仮面があって良かったかもしれない。ミアは直ぐに気持ちを切り替えて、龍神の背に乗った。ただ、ジャスミンが“時間内?”と疑問を呟いた事には、照れていて気がつかなかった。そんなミアにジャスミンは何かが分かったのか、ポンッと手を叩く。
「龍神よ。百メートルほど上に飛んでほしいのじゃ」
龍神が言われた通りに上空へと羽ばたくと、ミアは景色を眺め乍ら一つ大きく息を吐き出した。
「この鎧と仮面にこの高度と龍神の上なら大丈夫じゃろう」
呟くと、上空に巨大な魔法陣を浮かび上がらせる。それはとても大きな白金に輝く魔法陣で、地上にいる村人たちが魔法陣を見上げて驚きの声を上げた。するとその直後に、ミアが呪いとも言える病を治す白金に輝く光の粒子を降らせて、それは雪のように村に降り注いだ。
村人たちは歓喜し、祈り、涙を流した。聖女の噂はこの村にも流れている。誰もが望んでいた。本当に聖女がいるのであれば、自分たちを助けてほしいと。そしてその願いが届いたのだと、感謝の気持ちで心が満たされていった。
「ミアは本当に凄いです」
神秘的な神々しくも美しい光景を眺めながらネモフィラは呟くと、握り拳を作って胸に触れる。自分もミアのように誰かの為に力を振るえるようになりたいと、心から願った。
ネモフィラにとって、ミアはかっこいい“王子さま”であり、憧れだ。誰かを助ける事の出来る力を持っていて、気が進まない顔を見せても最後には絶対に助けてくれる。そんなミアが堪らなく羨ましくて、堪らなく憧れていて、堪らなく大好きなのだ。
「わたくしもいつか……いつか絶対にミアの隣に立てるようになります」
後日。この日この村に降り注いだ光の雨は、“眷属である龍神が、聖女の光を授かって奇跡を起こした出来事”だと語られる事になった。よって、ミアの鎧と龍神の背中百メートル上空作戦は、珍しく成功を収めたのだった。




