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騎士たちの決闘(1)

 ジャスミン等と別れたミアは、ヒルグラッセとルーサを連れて北東へ向かって走る。さいわいな事に、凍ってしまっているのは草木や建物ばかりで、被害を受けている人は一人も見かけなかった。建物の中を見ていないので、見えない所にはいるのかもしれないが。とは言え、被害が少ないのは良い事。見かける度に見捨てて犯人の所に向かうのは、ミアとしても良心が痛むのだ。だから、見える範囲に被害者がいないのは精神的に助かった。


「しかしよう。ジャスミン先生はなんで犯人の野郎を自分でぶっ飛ばすのを優先しなかったんだろうな? ミアに任せりゃいいってのは分かるけど、避難してる連中なんて、犯人をぶっ飛ばせば良い話じゃねえか?」

「ぬう。恐らくそんな単純な話では無いのじゃ」

「どう言う意味だよ?」

「氷の大樹の影響で凍る現象は恐らく魔装ウェポン使つこうておるスノウを倒せば治まるのじゃ。しかし、疫病の方は分からぬ」

「分からない? 疫病もどうせあの大樹が原因だろ? 普通は魔装ウェポンの効果は、使用者本人を気絶させりゃあ切れるもんだぜ」

「そこが引っ掛かるのじゃ。氷の大樹と疫病は別物のような気がするのじゃ。あの巨大な大樹は最初からあったのかのう?」

「……確かに変だな。聞いていた症状は、手足から凍傷になるって話だったけど、こいつはどう見たってそんなもんじゃねえ。なにかありそうだな。って……おい」


 ルーサがヒルグラッセに視線を向け、眉尻を吊り上げる。


「てめえも何か言えよ」

「私はミア様の侍従であり護衛騎士だ。無駄口を叩く必要は無い。ミア様が判断された事を実行するだけだ」

「てめえはお人形さんか何かか? 自分の意思で動けよ」

「ミア様がいない状況であればそうしている」

「いてもやれって言ってんだよ!」

「まあまあ。落ち着くのじゃ。そんなつまらぬ事で言い争っている場合ではないであろう?」

「ちっ。まあいい。いい事を思いついたぜ」

「いい事なのじゃ?」

「ああ」


 ルーサがニヤリと笑みを浮かべて、ヒルグラッセに向かって指を刺す。


「ヒルグラッセとか言ったな! ヒルグラッセ! てめえに決闘を申し込む! 決闘の方法は、この戦いでどちらが犯人の野郎を倒すかだ! オレが勝ったらミアの護衛騎士の座は頂くぜ!」

「……いいだろう。その勝負、受けて立つ」

「なんでじゃ!? そんな無駄な決闘はせんでええのじゃ!」


 と、ミアが叫んだところで犯人……スノウの姿を三人は発見した。

 スノウはチェラズスフロウレスでアンスリウムの護衛騎士をしていた少女。雪を思わせる白い髪と瞳を持ち、少し大人びた顔立ちの少女だ。チェラズスフロウレスの騎士用の軽鎧に、貴族の少女たちの間で流行はやっている装飾品を身に着けていた。

 ミアもヒルグラッセもその姿には見覚えがあり、見間違えるはずもない。そしてそれはルーサも同じだった。天翼学園に通っているルーサは、そこで何度もルーサと会い、そして戦った事もあった。だから、その姿を見れば直ぐに分かるのだ。

 スノウは民家の屋根の上で座ってつまらなそうに読書をしていたが、同じようにミアたちに気がついて立ち上がり、槍の形をした魔装ウェポンを取り出す。そしてその直後に、ミアの顔を見て一瞬だけ驚いた顔を見せた。が、理由は簡単だ。ミアが死んでいると報告を受けていて、王族も残るはランタナだけだと思っていたから。しかし、一人でこの村で待機を任されていただけはある。驚きはしたものの、直ぐに気持ちを切り替えて魔装ウェポンを構えた。


「開始だ」


 ルーサがニヤリとした笑みを浮かべて呟き、走る速度を上げる。しかし、魔装ウェポンを取り出すも、あの魔力を感知する水蒸気を出さなかった。これには理由があり、スノウの魔装ウェポンの力と相性が最悪だからだ。水蒸気だから凍らされて無効化されるどころか、そのまま極細な氷の粒として攻撃に利用される。天翼学園では試合する事も何度かあり、その戦いで何度も食らった事がある。ルーサはその経験から、この場で使うのは得策ではないと判断したわけだ。

 遅れてヒルグラッセが前に出るが、あくまでもミアの目の前を走るだけ。主を置いて先行するなんて出来るわけがないので仕方が無いが、焦る気持ちが少し出る。

 そして、ミアは困っていた。正直な話、ヒルグラッセとルーサが決闘なんてしなければ、既に戦いは終わっていた。ミアはスノウを発見する前から既にミミミピストルを撃つ準備が出来ていて、確認したら撃って終わる予定だったのだ。でも、それが出来なくなってしまった。


(ぬぬう。困ったのう。ワシが倒してしまったら無効になるとは思うのじゃが、でも、そんな無粋ぶすいな事は出来ぬのじゃ)


 なんと言うか随分と真面目。そんな真面目なミアは一先ず足を止めた。今のミアが思いつく状況の打破は一つだけだ。


「グラッセさん。ワシに構わず戦ってほしいのじゃ。その代わり、ちゃんと勝つのじゃ」

「ミア様……承知しました。ありがとうございます」


 ヒルグラッセが走る速度を上げて、既に始まっているルーサとスノウの戦いの中に入って行く。しかし、その時だ。龍神とその背に乗るネモフィラに向かって、スノウが氷の槍を大量に生み出して飛ばし始めた。ネモフィラは慌てて避けようとしたけど、それが逆に駄目だった。

 何故なら、ネモフィラが乗っているのは龍神の上。龍神はスノウの攻撃をしっかりと避けたのだから。そして、その反動でネモフィラはバランスを崩し――


「きゃあああああああ!」

「フィーラ!」


 ――龍神の背中から真っ逆さまに落ちてしまった。

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