お子さま先生は頼りになる(2)
ジャスミンの魔法のおかげで地上に降りても凍らなくなると、龍神の背に乗っていたネモフィラたちも地上に降りて、気絶した村人をミアのワタワタの上で眠らせた。
「地面に置いても凍らないなんて、流石はジェンティーレ先生の作った魔道具ですね」
「うむ。これはあらゆる色々なものを防ぐように作られておるからのう」
「いいなあ。プラーテもワタワタほしい」
「ううむ。それはジェティに頼んでみないとなのじゃ」
「そっか~」
プラーテがもの欲しそうな顔してワタワタをモフモフする。とても気に入ったようだ。その手は止まらず、夢中でモフモフモフモフモッフモフしている。そんなプラーテを微笑ましく見つめながら、ジャスミンがミアに話しかける。
「魔装を使った時の魔力の流れが分かるんだよね?」
「うむ。……あ。そうなのじゃ。言われてみると、あの氷の大樹から地面に流れておる魔力を感じるのじゃ。寒さのあまりそれどころではなくて見落としていたのじゃ」
ミアは本気で忘れていたようで、言われてみればと周囲に視線を向けた。それで分かったのは、氷の大樹の根本から地面を伝って魔力が流れていて、触れたものを凍らせている事。そして、根元ではなく氷の大樹の幹から伸びる一つの魔力の流れ。他のものとは明らかに質が違っていて、それが魔装の所持者の居場所まで導いている。その事に気がつくと、それを察してジャスミンがニコニコな笑顔をミアに向けた。
「犯人が何処にいるかも、もう分かるよね?」
「うむ。ここから北東の方角なのじゃ」
「おお。すげえな。ミアはそんな事も分かんのかよ。なら、早速犯人をぶっ殺そうぜ」
ルーサがやる気に満ちた目で歩きだす。すると、それを慌てた様子でジャスミンが「殺すのはダメだよ!」と止めた。ルーサは足を止めたものの、なんでだよとでも言いたげな顔になり、ジャスミンが冷や汗を流して「あのね」と言葉を続ける。
「目的とか他に仲間がいないかとか調べないといけないし、殺したら分からなくなっちゃうかもなの。もし黒幕がいた場合、ちゃんとそれが誰か確認する為にも殺しちゃダメだよ」
「面倒だな」
文句を言いながらも、しっかりと言う事を聞いて立ち止まる。ルーサは天翼学園の在校生だから、チェラズスフロウレスの学生寮寮長ジャスミンの強さを知っている。だから、ここで無視して行く事はなかった。ルーサが暴走しなかった事にジャスミンはホッとして、何かを思い出したようにポンッと手を叩く。
「あ。あとそれから、私は別行動するね」
「どうしてなのじゃ?」
「えっとね。プリュちゃんとラヴちゃんの居場所が分かるんだけど、ランタナくん達もいるっぽいんだよね」
「なんじゃと!? いつの間に調べたのじゃ!?」
「私と精霊は契約してるから、頭の中でお話が出来るの。それでこの村に到着した時に聞いたんだよ」
「精霊使いはそんな事も出来るのじゃ? 知らなかったのじゃ」
色んな本でこの世界の事を学んだミアだけど、これは初耳だった。と言うのも、普通はそんな事が出来ないからで、ジャスミンが特別なのだ。この世界にある精霊使いに関連した本をどれだけ読もうが、ジャスミンのような例は他にない。流石は天翼会の責任者と言うだけはある。
「ランタナお兄様とリベイアは無事なのですか?」
「う~ん。それが……リベイアちゃんは凍傷を起こしてて、初期症状が出ちゃってるみたいなんだ」
「そんな……っ」
「それにね。この凍る地面からプリュちゃんとラヴちゃんが村の皆を一緒に護ってるみたいで、そろそろヤバいみたいなんだよ。だから、私は直ぐに助けに行きたいの」
「先生方でも抑えるのが大変なのですか?」
「うん。ずっとまともにご飯を食べてなくて、力が出ないみたい」
「……え?」
「こんな事ならご飯を食べずに寝るなんてしなければ良かったんだぞ。早くパンケーキが食べたい。って二人に言われたよぉ」
「パンケーキ……」
お腹が空いて力が出ないと言うおバカな理由。そのせいでピンチに陥っていると知り、緊急事態だと言うのにネモフィラは目を点にして驚いた。それを聞いていた他の者も同じだ。ルニィやヒルグラッセは顔には出さないが呆れていて、ルーサと見習い騎士は完全に顔に出ている。プラーテはワタワタに夢中で聞いていない。でも、ミアだけは「腹が減っては戦が出来ぬのじゃ」と何度も頷いていた。
「事情は分かったのじゃ。なら、ワシが犯人の所に行き、そ奴を倒して魔装の力を解除させれば良いのじゃ」
「うん。出来ればそうしてほしいな。適材適所って事でどうかな?」
「分かったのじゃ。犯人はワシに任せるのじゃ」
「良かったぁ。じゃあよろしくね。ミアちゃん」
「うむ」
話し合いが終わると、ミアはヒルグラッセとルーサを連れて、流れる魔力を辿って北東に向かった。他の者はジャスミンと一緒にランタナたちの救助に向かう事になる。そして――
「龍神様。空からこっそりミアの後をついて言って下さい。わたくしもミアの活躍が見たいのです」
――ネモフィラが他の者に気がつかれないようにこそこそと話しかけ、話が通じたのか龍神が頷き、ネモフィラを背に乗せた。




