お子さま先生は頼りになる(1)
氷の大地と化したマイコメール村。氷の大樹がそびえ立ち、草木や家だけでなく、人まで凍り付いていた。
「まずはあそこで凍ってる人を助けなきゃだね」
「しかし、どうやって助けるのじゃ? あんな風に凍ってしまっていては、流石に手遅れだと思うのじゃが? ワシの魔法では氷を溶かせぬのじゃ」
「ミアの魔法でもどうにもならないのですね……」
「ふっふっふ~。そこは先生に任せて」
ジャスミンは得意気な顔をして答えると、龍神の背中から飛び降りる。それを見てミアたちが慌てたが、心配はいらない。ジャスミンは風を纏って空を飛び、凍っている人の目の前に舞い降りた。その姿に驚きながらも、ミアも白金に輝く翼を出して近づく。
「流石はジャスミン先生じゃのう。精霊と契約しておるだけあって、色々な属性の魔法が使えるのじゃ」
「普通は一人一つの属性だけだから驚いちゃった?」
「うむ。それで、どう助けるつもりなのじゃ?」
質問しながらミアが地上に降り立とうとすると、ジャスミンが「ダメだよ!」と慌ててミアを掴んで止める。ミアがその様子に驚いてジャスミンに視線を向けると、ジャスミンではなくラテールが呆れた顔して説明を始めた。
「そこにある氷の大樹の根っこから、触れたものを凍らす魔力が流れているです。今地面に立てば、あっという間に凍り付くです」
「な、なんじゃと……」
「この感じ……。多分これって、魔装の力じゃないかなぁ」
「そうじゃないッスか~? 確か腹黒王子の侍女にこんな感じの魔装を使う奴がいたッス」
「なんじゃと!」
ミアは直ぐにミミミの髪留めモードで確認する。すると、ジャスミンが言っていた通りだった。魔装の名前は【氷槍の杯】。氷の属性を持つ強力な魔装で、それを操るのはスノウ=ドロップと言う名の十三歳の少女。攻撃した相手に凍傷ダメージを与える事が出来て、その攻撃方法は多種多様である。
「つまり、あの氷の木は魔装で生み出した物と言う事じゃな。厄介なのじゃ」
「こんな事に魔装を使うなんて。後でお仕置きしなきゃ」
「ご主人、お仕置き程度じゃすまされないッスよ」
「です。でも、それよりさっさとやる事をやるです」
「あ。うん。そうだよね」
ジャスミンが魔法陣を浮かび上がらせ、そこから蒼炎の炎が放たれる。蒼炎は凍り付いた者を包みこみ、氷だけを溶かした。すると、凍っていた者はまるで今までただ時間が止まっていただけかのように動きだし、目の前にいるミアたちを見て驚いた。
「うわあ! お、女の子……? びっくりした。何処から出て来たんだ?」
「呑気なもんッスねえ。自分が凍っていた事も分からないんスか?」
「せ、精霊様!? 何故ここに精霊様が!?」
「……面倒です」
ラテールが本当に面倒臭そうに呟くと、丁度そのタイミングで龍神が低空飛行で降りてくる。流石は龍神と言うべきか、最初から気が付いていたのだろう。決して地面には降りず、地面に触れないようにしていた。
因みに、ここにはアネモネがいないので言葉を交わす事が出来ない。お気づきかもしれないが、そんな理由もあって龍神はずっと黙っているのである。
そう言う理由もあり龍神が突然何の前触れも無く現れたような状態になり、さっきまで凍っていた者が驚き、驚愕のあまり声も上げずに気絶してしまう。余計面倒な事になったとラテールが龍神を睨み、トンペットもジト目を向ける。そんな二人をジャスミンが冷や汗を流しながら宥めていると、ネモフィラとプラーテが顔を出した。
「ミア。何故ミアもジャスミン先生も龍神様も地面に降りないのですか?」
「そこの氷の大樹が魔装で作られた物なのじゃ。その大樹の根から冷気を含んだ魔力が流れておって、地面に降りれば凍るのじゃ」
「そ、そうなのですか!?」
「でも、そのお兄ちゃんは凍ってないよ?」
「それはジャスミン先生が魔法をかけたおかげなのじゃ。あ。そうなのじゃ。ジャスミン先生。ワシ等にもその魔法をかけてもらってもええかのう?」
「え? あ、うん。そうだね。その方が良いよね」
ジャスミンは頷くとミアたちに魔法をかけて、自分も降り立った。尚、蒼炎の炎で全身を覆われたので見習い騎士くんがパニックを起こしたのだけど、まあ、それは別の話。




