子供は風の子
「寒! めちゃんこ寒いのじゃ!」
「は、はい。こんなに寒いのは初めてです」
龍神の背中に乗って空からマイコメール村にやって来たミアたちは、村の気温の低さに身を震わす。現在のマイコメールの気温はマイナス五度。対してミアたちの服装は真夏の格好で、つまりは薄着。ブレゴンラスドは余裕で三十度は超えるくらいには気温が高いので、とんでもない温度差である。しかし、流石はミアの侍従長ルニィ。こんな事もあろうかと、人数分の衣装を用意していて、それを全員に配――
「じゃーん! プラーテだよー!」
「ぷ、プラーテ様!?」
はい。もうこの子ホンマ。って感じで、全員分の衣装を入れていたバッグに、プラーテが入っていました。そのせいで衣装は無く、ミアのくしゃみと鼻水が舞う。
「な、なんでプラーテが鞄の中から出てきたのじゃ……?」
「申し訳ございません。出発前に確認を怠った私の失態です」
ルニィが謝罪するが、誰もがルニィのせいだとは思わない。と言うか、プラーテの行動が予測不能過ぎて掴めないので、寧ろ可哀想と思うまである。そしてそんな中、プラーテは寒空の下でも滅茶苦茶元気だ。
「すごーい! 見て見てー! あっちの方に氷の大樹があるよー!」
「氷の大樹があるよー! じゃ、ねえだろ! てめえ! プラーテ! どうしてくれんだ!」
「あ。ルーサお姉ちゃん。どうしたの?」
「てめえがバッグん中に入ってたせいで、着る服がねえんだよ! てめえもその格好なら今がどんな状況かって分かんだろうが!」
「ん~……ちょっとだけ寒い……?」
「ちょっとじゃねえええええよっっ!!」
(ううむ。あれじゃな。子供は体温が高いから、寒いのもへっちゃらと言うやつなのじゃ。ワシの子も小さい頃は一月だと言うのに半袖と短パン姿で走り回っておったのじゃ。懐かしいのう)
などと前世の記憶を思い出して、プラーテにしみじみとした顔を向けるお爺ちゃんモードなミア。しかし、その顔からは鼻水が垂れている。
「あ、あの。ミア様。失礼でなければ私の服を――」
「ヒルグラッセ。貴女、ミアお嬢様にメイド服を着せる気?」
「しかし、私とルニィは袖の長いメイド服を着ているからまだいいが、ミア様はこのような薄着なのだぞ」
「だからと言って、召使いが着用している服を主に与えるなど、あってはならないわ」
「まあまあ、二人とも喧嘩をするでないのじゃ。それに、ワシは寒い時に有効な手段を知っておる」
どこまでも真面目なルニィとヒルグラッセの言い合いが始まると、それを見かねてミアが二人の間に割って入った。鼻水を垂らしながら。
「ミア。何か良い方法があるのですか?」
話を聞いていたネモフィラが首を傾げて尋ねると、ミアは「うむ」と鼻水をすすって、ルニィがハッとなってミアの鼻にハンカチをあてる。ミアはハンカチで鼻をチーンすると、スッキリとしたドヤ顔で人差し指を立てて、再び鼻水を垂らした。
「体と体で温め合うのじゃ!」
これが漫画であれば、“ドーン!”と鼻水を垂らしたミアの背後に効果音が出る事だろう。そんなミアにネモフィラは首を傾げて、ヒルグラッセが少し顔を赤らめて、ルニィがミアに冷めた視線を送る。
「はしたないので却下です」
「なんでじゃ!?」
「えっと。ちょっといいかな?」
「ジャスミン先生? どうしたのじゃ? 体と体で温め合うのじゃ?」
「違うよ! そんなエッチな事しないよ!」
「それはえっちな事だったのですか……?」
「なんでもないよ! フィーラちゃんにはまだ早いんだからね!」
「はい……?」
「ご主人落ち着くッス」
「いいからさっさと本題を話すです」
「わ、分かってるよ! こほん」
ラテールに話を施され、ジャスミンが一度咳払いと深呼吸をして、この場にいる全員の顔を見た。そして、鼻水をチーンするミアを見て、ニッコニコの笑顔で話す。
「私が皆に体がポッカポカになる魔法をかけてあげるね」
流石は天翼会の学生寮寮長と言うべきか、ジャスミンが魔法で春の国チェラズスフロウレス並の体感温度を全員に提供する。そうして暖を手に入れると、ミア達は氷の大樹の許に辿り着いた。
「ミア。人が……家も草木も全部、何もかもが凍っています」
「何がどうなっておるのじゃ……?」
村は氷の大樹を中心にするように、凍てつく大地となっていた。




